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7 私の人生を変えられるものがあるとすれば(1)

 勉強は、いつだって本気でやっている。


 剣様に並べるように。

 剣様を好きな自分でいられるように。

 手を抜くわけにはいかなかった。


 剣様はお勉強も得意なのだ。

 英語のスピーチコンテストなんかでは賞を取るくらいには、英語が得意。

 論文コンクールで賞を取るくらいには、国語が得意。

 化学部にもよく顔を出しているみたいだし、世界史の論文はとてもよく書けているからと、図書館でコピーが貸し出されている。


 どれだけ本を読んでも、きっと剣様には追いつけない。


 それでも、高校への進学試験では、内部進学だというのにかなり勉強した。

 高校へ上がってからも、なかなか手は抜けない。


 だから昼休みには、時々学校の図書館へ向かう。


 図書館は、学園内で一つ。

 その分、レトロな煉瓦造りの大きな建物一つを陣取って、蔵書自慢ができるくらいの本を揃えている。

 私はというと、色々な分野の本があるけれど、勉強がてらに洋書を借りる事が多い。


 ちなみに最近読んでいるのは、英語で書かれている子供向けの冒険物語だ。

 シリーズもので、カラーイラストがふんだんに使われているお気楽なやつ。


 だから今日も、図書館へ向かう為に、学園内を歩いていた。


 剣様はお昼は生徒会室だろうか。

 つい生徒会室寄りに歩いてしまう。


 昨日眺めた校舎裏のガーデンが見える場所を歩いて行く。


 そこで、カチリ、と奈子の足が止まった。




 え……………………?


 ベンチに、見知った姿を見つける。


 この紺色の、スカート丈まで決まったちょっとダサい制服を着ている限り、間違いなくこの学園の生徒で。

 もちろん、私もこの学園の生徒で。

 生徒であるならば、毎日この学園で生活をしていて当然なわけで。


 ましてや高校2年生ならば、私とは1学年しか違わないわけで。

 私がいつも居る教室の上の階にある教室で学んでいるわけで。


 だから、そこに居るのは当たり前なのだった。


 居てもおかしくない存在だ。


 例えそれが、春日野町剣様だったとしても。

 今まで、その人がいる場所は歓声の中心であって、お見かけする事があるのは必ず歓声が起こる場所であって、こんな風に静かな場所で偶然鉢合わせた事がない相手だったとしても。


 そこに居るのはあり得ないことではなかった。


 嘘…………。


 けど、見間違えようもなかった。


 日陰にある艶やかな木製のベンチの上。

 黒く長い髪が流れている。

 スラリとした身体に繋がっている。

 規定通りキッチリと測られたスカート丈。

 女神が住む泉から生まれたとしか思えないその指先。

 先月の中頃新調された茶色の革靴。


 どうし……て…………。


 剣様が少し顔を上げる。

 ガーデンを眺めているのだろう。

 少し風が吹いたから。


 相変わらず整ったツンとした鼻の上に、精巧な濃い茶色の飴玉のような瞳が見えた。

 間近で見れれば泣いてしまいそうな長い睫毛は、今日は何故だか、何処かしら憂いを帯びているようだ。


 こんな場所に居るなんて。


 けど。


 剣様だ。

 剣様だ剣様だ剣様だ剣様だ剣様だ剣様だ剣様だ剣様だ剣様だ剣様だ剣様だ。


 ほろりと、奈子の頬を涙が伝った。

もちろん会うこともありますよね。

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