69 まるでデートみたいな(5)
残りの3人は、双子がそれぞれ水着を選び、小節先輩が意見を言っている。
小節先輩は双子が試着した姿にフムフムと意見を言う。
それは仲が良すぎなんじゃないかと思いつつ、奈子は残った剣先輩と二人で、水着を選ぶ事になった。
とはいえ、剣先輩は、全身タイツを拒否してしまったので、私の提案はおあずけだ。
「これはどうかしら」
試着室から出てきた剣様は、黒いハイレグの水着を着ている。
「プフッ!!」
あまりの驚きで、つい、噴き出してしまう。
「つっ……!」
剣様を隠す為、周りを確認しながら手をバタバタさせる。そのまま剣様を試着室へ押し込んだ。
「なんて格好してるんですか!」
バクバクという心臓を抑えつつ、声をあげた。
「何って、水着を買いに来たのだけど」
しらっとした声。
なんでそんなにそっけないんだ!
肌色が多すぎる!
脚が見えちゃってるし!
そんな格好で外を歩くなんて、問題外でしょ!!
「ダメです!肌が出過ぎです!焼けたら大変なんですよ!?そんな白い肌、痛くなっちゃうんですからね!!」
顔を真っ赤にしながら、もっともらしい理由を付け加えた。
「日焼け止めつければ大丈夫よ」
そんな格好でいられたら、私だってきっと正気じゃいられない。
目をギュッとつむり、試着室のドアを押さえた。
そんな奈子の事など気にも止めず、剣様がまた、別の水着を試着して試着室から出てくる。
「剣……様」
深い色の水着。
上はヒラヒラとしたフリルが付いていて、下はショートパンツ。色と相まって適度な大人らしさを見せる。
正直、似合っている。
けど。
「それは……お腹が出ているじゃないですか」
つい、不機嫌な声になってしまう。
「……似合ってない?」
「え?」
顔を上げると、剣様が一歩、こちらへ近付いて来ていた。
その真っ直ぐに見てくる視線にゾクリとする。
少し動けば触れてしまいそうな距離に、気持ちが高揚するのが分かった。
瞳の深い色。
揶揄うような瞳の奥に、どこか冷めた色を見せる人。
剣様は、こんな視線に反抗する力を、私が持っていない事を知っている。
「似合ってます」
声は小さくなった。
聞かれたくない言葉だった。
けれど、本心だ。
「じゃあ、これにするわ」
ニッコリと、笑っていない顔で笑う。
剣様の水着姿なんて、誰にも見られたくないのに。
私は、そんな気持ちを伝える言葉を持たない。
結局剣様は、その水着を買った。
双子は相変わらず違うデザインの水着を買っていた。
杜若先輩はビキニに薄いTシャツを羽織る。菖蒲先輩は腰にパレオを巻いていた。
違うデザインではあるけれど、どちらも上品で、どことなく対になっている感じがした。
小節先輩は、なんと普通のハーフパンツ的な水着を買っていた。
絶対全身タイツか、それでなければブーメランでも穿いていそうな雰囲気なのに。
そんな風に、少し裏切られた感じがしつつも、買い物は全て完了したのである。
ナチュラルに女子にまじれる小節くん。