68 まるでデートみたいな(4)
最終的に、5人で水着を買いに行く事になった。
5人で歩く時、どうやったら剣様の隣を確保出来るだろう。
それが、今の課題。
私一人だけ下級生なものだから、どうしても最後について歩くようになってしまう。
間に、杜若先輩、菖蒲先輩、小節先輩が居る。
先輩達の事は好きだけど…………。
邪魔!!!!
エスカレーターに乗る間、人の隙間から剣様が見えた。
私服の剣様。
お忍びで街に出るプリンセスのようだ。
人間の服を着て人間になりすましているけれど、その生まれすら違う神々しさは隠すことが出来ない。
無意識に、息が荒くなってしまう。
心の中に刻みつけておかなくちゃ。
何があっても決して消えないように。
もし、記憶喪失になるような事があっても。
自分の事を忘れる事があっても、剣様の事は絶対に忘れない。
そうこうしているうちに、水着売り場へ到着してしまう。
「朝川は水着、持ってるの?」
杜若先輩に尋ねられる。
「持ってないんですよね」
う〜んと、悩む。
実際、奈子は、自分の事には無頓着だ。
自分が遊ぶ為に泳ぐというのも、その為にわざわざ水着を買うというのも、ピンとこない。
とはいえ、そんなに水着らしくなくていいだろう。
Tシャツと短パンみたいな水着もあるわけだし。
そんなことより、大事な事がある。
「剣様は、水着は買うのですか」
「ええ、そうね」
剣様は、キョロキョロと辺りを見渡しながら言う。
よっしゃ!剣様のお隣ゲットだ!
剣様に似合う水着、といえば、黒のビキニだろうか。
想像する。
海辺。
砂浜。
波。
海風になびく黒髪と…………。
あっ、脚が見えるとよくないな。男どもやファンの視線に晒されてしまう……。
じゃあ、脚は覆って。
もちろんお腹も隠すよね。
わかった!
「剣様!」
「なあに」
「剣様にはこんなのが似合うと思います!」
と、全身タイツかと思うような長い丈の繋ぎの水着を見せた。
脚も隠れれば、胸元も隠れる。
地味な色でも派手な色でも魅力が増してしまうから、出来るだけダサい柄のオレンジ色の繋ぎの水着だ。
これに出来るだけ身体のラインが出ないようにして……。
「着ないわよ」
と、剣様はそっけない。
……そうか。
まあ、これでも、剣様の輝きが抑え込めるとは思えない。
この水着を着こなした第一人者として有名人になってしまうのは本意ではない。
「気に入ったならあなたが着ればいいじゃない」
剣様は、こっちを見ようともせず、水着を見繕いながらそっけなく言う。
私が?
ちょっとドキリとする。
もしかして、これは剣様に選んでもらったって、言えなくもない?
それはちょっとやぶさかじゃあない。
そんな気持ちがダダ漏れてしまっていたのか、剣様はその水着をじっと見る私を、呆れた顔で見た。
「冗談よ」
そして、剣様は一つ水着を持ってきた。
「これはどう?似合いそう」
そう言ったのは、普通のTシャツとミニスカートに見えるような、かわいさ重視の水着だった。
「……私に、ですか?」
「ええ」
剣様が私に水着を合わせてみる。
……ほ、ほんとに、剣様が私の水着を選んでくれてる……。
かぁぁっと顔が熱くなる。
「私、それにします!」
自然に会話していた方がデートっぽいですね。