67 まるでデートみたいな(3)
「買うものは、メモにまとめておいたわ」
と、杜若先輩が言う。
ゴミ袋や軍手、エプロンなんかの作業用品、それに、花火、水着……。
半分くらいは遊びで使うものだ。
まず最初に、作業用品の方を買いに行く。
「エプロンは、地味な方でいいかしら」
悩みながら双子が話し合っている。
「掃除が目的だし、地味なものをお揃いにするのでいいかもしれないわね」
その後ろでは、エプロンを試着した小節先輩が、姿見の前で眼鏡をクイッと持ち上げながらドヤ顔でポーズを決めている。
「しょうがないわね。行くわよ、朝川」
その様子を見て私に声をかけたのは、他でもない剣様だった。
つい、ビクンとしてしまう。
「こっちはこっちで、花火を探しに行きましょう」
「はい!」
一緒に買い物という事は、こんな時間も来るんだ……。
隣に離れて並ぶ。
程々の距離を保っているのに、隣からいい香りが流れてきそうだ。
これは、シャンプーの香りなんだろうか。
それとも、剣様そのものの匂い……?
そんなことを想像して、鼻血が出そうになる。
いけない。こんなところでのぼせて倒れるわけにはいけないのだ。
二人、並んで歩く。
これって、これって……。もしかして。
デート???
『そうよ!プライベートな状況で!私服で!お誘いがあって、了承したじゃない!これはデートよ!』
『それ以外の解釈、あり得へんもんなぁ』
頭が、フワフワする。
「あった」
剣様が示した方を見ると、花火がたくさん吊ってある棚があった。
花火……。
剣様と……花火……。
もうすっかり、否定できないくらい顔が熱い。
「えっと……」
手の届きそうな場所で、剣様の長い髪が揺れた。
ホームセンターなんていう、日常的な場所に、剣様が存在してる。
女神様が、地上を見下ろしているのだ。
迷惑にならないように、早く花火を選ばなくちゃ。
「5人……!えっと、でも小節先輩は両手で持って飛び回りそうですから、沢山ある方がいいですよね」
「そうね」
一瞬、曇った顔を見せた剣様が、考えながら同意する。
結局、一番大きな花火のセットを抱え、みんなのところまで戻る。
「あら、たくさん買うのね」
とクールながらも明るい声をあげたのは、杜若先輩だった。
「へへ。たくさんできますよ。小節先輩が両手で持って踊るんじゃないかと思って」
「ああ、小節くんならやりかねないわね」
ふむ、と菖蒲先輩がその光景を思い浮かべるように口元に手を当てた。
その光景を見ていた剣の顔に、小節の手が伸びた。
ぐりぐりと眉間に指を当てる。
どうやら眉間の皺を伸ばす仕草らしかった。
その意思に反して、剣の眉間の皺は、より一層深く刻まれた。
キッと小節を睨みつける。
その視線を受けて、小節はドヤ顔……むしろどちらかと言えば嘲笑の顔を作った。
余計にイラついた剣は、プイッとそっぽを向いた。
お買い物開始ですね!