66 まるでデートみたいな(2)
約束は午後だというのに、午前8時にはもう奈子はお風呂に入っていた。
…‥やっと剣様に会えるのだから、綺麗で、いい匂いで居たい。
女神様を拝みに行く時は……!
短い髪に三つ編みを作り、ピンで止める。
結局、Tシャツにロングスカート、ショルダーバッグ、サンダルという無難なコーデになった。
もっと高い服も、可愛い服もあったけれど、悩みに悩んだ末の事だ。
午前中には一人で電車に乗る。
窓の外に住宅街が流れていく。
遠くに雲が浮いている。
電車に乗っている時は、これから剣様と会う実感がわかなかった。
ささやかな独りぼっちの寂しさと共に流れていく今までの時間と、どう違うのかわからなかった。
けれど、
「朝川」
と声をかけられビクリとした瞬間、これから剣様と会う事が現実味を帯びてきた。
くるりと振り向くと、そこには小節先輩が立っていた。
その姿を見て、
「う……っ」
と、つい声が出てしまう。
ア…………アロハシャツ……!
それは予想通りというか、予想外というか。
ファンシーな柄のアロハシャツだ。
足が長い分、何を着てもそこそこ見られるものになるのがまた、憎らしく思う。
いつもとは違うオシャレ重視の黒縁眼鏡をクイッと持ち上げると、
「同じ電車だったんだな」
とドヤ顔を作った。
煩い。離れて歩きたい。
とはいえ、先輩に対してそんな扱いをするわけにはいかないだろう。
横目で、じ……っと見る。
うん。顔だけ見ればイケメンだから。
大丈夫。
黙ってじっとしている顔だけ見れば……。
宿題の話や合宿の話をしながら、小節先輩の隣に居る事に慣れてきた頃、電車はショッピングモールの駅に着いた。
ショッピングモールは駅を出てすぐ。通路で繋がっている。
待ち合わせ場所へ行くと、既に3人がそこに居た。
心臓が、バクバクする。
先に目が合ったのは双子の方だった。
杜若先輩と菖蒲先輩は、予想に反して服はお揃いではなかった。
けれど、どこかお嬢様然とした雰囲気はそっくりだ。
「おはよう、朝川」
そして、黒髪のロングヘアーが視界に入る。
くるりと振り向くと、ツンとした表情が目に入る。
何が気に入らないのか、眉をひそめ、まるで不機嫌そうな顔。
ツンとした鼻先。
流れる髪を抑える手のひら。
白い緩やかなワンピースが風に揺れた。
剣様……。
見惚れる。
まるで、死にかけた騎士が森の中で彷徨った先、精霊に出会ったみたいに。
この世からズレた場所に存在する、何か別の生き物みたいで。
息をするのを忘れる。
なんて涼やかで神々しいんだろう。
「おはようございます」
目を潤ませながら剣様を見上げると、剣様は一つため息を吐いた。
そして、『しょうがないわね』とでもいうような顔で、
「おはよう、朝川」
と朝の挨拶を返した。
「大好きです」
あまりの美しさに思わず口にする。
すると剣様は、
「知ってるわ」
と苦笑を浮かべた。
生徒会、美男美女が揃っているのでは???