65 まるでデートみたいな(1)
夏休みに入ると、時間はゆったりと過ぎていった。
勉強をしてみたり、ピアノを弾いてみたり、剣様のご友人のSNSを巡回してみたり、ショッピングをしながら剣様に似合いそうな服を見繕ってみたり。
つまり、基本的に剣様の事を考えていたという事だ。
剣様に会えない時間は、時間が経つのがとても遅い。
そんなある日のことだった。
トゥルル♪トゥルル♪
と、スマホの着信音が鳴った。
あれ?杜若先輩から通話?
合宿はまだ先なのに。
と、合宿のしおりで日程を確認しながらスマホを取る。
うん。まだ、合宿までは1週間ある。
合宿のしおりは私が丁寧に日程を確認しながら作ったものだから、間違いはない。
「もしもし」
「あ、朝川?明日の時間なんだけど」
「明日?」
明日、何かあっただろうか。
生徒会のメンバーは、それぞれ、夏休みに活動しているボランティアや部活の確認作業が入っている。
なので、一人で行う作業はあるにはあるのだけれど、……明日の予定なんてあったかな。
ぽやっと頭を巡らせていると、
「明日は生徒会のみんなで、合宿準備の買い物をするって話してあったでしょう」
と言われてしまう。
相変わらずクールな声。
買い物???え、何それ???
パラレルワールドにでも迷い込んでしまったのだろうか。
「買い物、ですか」
「そうよ。あんなに元気に返事していたのに、すっかり忘れてしまったのね」
吹雪のようなため息が漏れそうな声だった。
そこで奈子は何も言えなくなる。
確かに、何を言っていたか理解しないままに返事をしてしまった覚えは……ある。
しまった、そういう話だったのか。
「それって、5人で……って事ですか」
「もちろん」
呆然とする。
明日???
剣様に会える?????
呆然とする私に、杜若先輩は待ち合わせの時間と場所を一方的に告げる。
「わ、わかりました」
駅は、ここからほど近いショッピングモールのある駅だった。
5人で……ショッピング?
ゾッとして、立ち上がる。
「ど、どうしよう!何着て行こう!?」
自業自得だけれど、突然の事だ。
剣様に私服で会う。
心臓がバクバクした。
慌ててクローゼットを開ける。
パンツルック?スカート?
そこで、姿見に目が行き、ビクッとする。
肩にも届かない短い髪。
あんまり、ヒラヒラしたワンピースなんかは似合わないかもしれないな。
そんな事を考えてしまい、少しだけ苦笑する。
結局、服と靴、バッグ、髪型が決まったのはその日の夜中を過ぎたところだった。
心臓が、バクバクする。
いつものように剣様のお顔を大写しにしたタブレットを抱き、大きく息を吸い込んだ。
剣様…………。
剣様の頬に、唇を這わせる。
怖くなってしまう。
明日はどんな顔で会えばいいのだろう。
5人でショッピング!華やかでいいですね!