64 夏が始まる
もうすぐ、夏休みが始まる。
とはいえ、夏休み中ずっと会えないというわけではない。
8月の半ばにはボランティアを兼ねた生徒会の合宿がある。
けど、それはつまり、それまで会えないという事だ。
3週間……。
そう思うと、頭がクラクラしてしまう。
剣様の生活を垣間見れれば……、と思うものの、剣様はSNSなどはやっていない。
剣様の生活の音声だけでも拾えないかと思い、また思い直す。
剣様が自分に生活音を、ただの信者1号に提供してくれるわけはなかった。
それ以外の方法だと、犯罪だ。
剣様の信者に犯罪者がいるなんて、それは剣様の将来にも関わってくるだろう事なので、してはいけない事だ……。
そんな事を思いながら、奈子は生徒会室の扉を開けた。
その瞬間、剣様と目が合ってビクッとする。
生徒会室には、剣様しか居なかったのだ。
え!?
真面目で健康な先輩達が誰も居ないなんて、滅多にない事だった。
心臓がバクバクする。
「お、はようございます」
そう辿々しく挨拶をすると、
「おはよう」
とそっけない返事が返ってきた。
作業机の一角の席に着く。
剣様と、二人きり。
剣様の存在が、揺らめく炎みたいに気になってしまう。
見ていたい。
けど。
床に這いつくばりたい気持ちをなんとか抑える。
相変わらず、剣様は、私にとって女神様だった。
世界を変える力を持つ、女神様だ。
畏れ多い。
愛してる。
そばにいてほしい。
けど。
だからこそ。
息が出来ない。
苦しい。
私は、知っている。
私が剣様をこうして眺める事が出来る時は、剣様も私を視認できるという事を。
もし、一瞬でも、私が剣様に、“不快”を与えたらどうしたらいいのだろう。
思ってしまうのだ。
ここに私が存在する事が、迷惑だったらどうしよう。
だって私は、間違いなく下心を持って、ここに座っているのだから。
そんな事、気にするのは詮無い事だとわかっている。
剣様は、私の気持ち悪いところも、受け入れてくれている。
それでも。
二人きりなると、思い知らされてしまうのだ。
剣様が女神なら、私は地を這うトカゲだ。
そうこうしているうちに、扉が開き、先輩3人が入ってきた。
少なからず、ホッとする。
「おはようございます!」
「おはよう、朝川」
剣様が、フン、と鼻を鳴らした。
「今日は、夏休みの事について相談しましょう」
全員が席に着き、話し合いが始まった。
夏休みの合宿は、海に行く事になった。
海岸付近の町の福祉活動を見学しつつの、海岸のゴミ拾いが今回のテーマ。
とはいえ、仕事ばかりしているわけでもなく、海で泳ぐ事もできるらしい。
そ……れは…………。水着姿の剣様と、キャッキャウフフなイベントが待っているという事……!?
水着……!?
つい剣様の方を見て想像してしまい、顔が熱くなる。
「それでいい?朝川」
名指しで同意を求められ、剣様の水着妄想しかしていなかった私は、わけもわからないままに、
「はい!」
と返事をしたのだった。
そしていよいよ恋愛が加速していくのです!