56 初仕事(4)
会長の机の上には、金のトロフィーが置いてある。小さいなりに、ちゃんとしたトロフィーだ。
会長の席には剣様が。
そして、目の前に立つ奈子を取り囲むように、右側に小節先輩が、左側には杜若先輩と菖蒲先輩が立っている。
「おめでとうございます、剣様」
と笑顔を見せると、ついほろりと泣いてしまった。
「朝川……?」
剣様が眉を寄せた。
「私……感動しちゃって」
そう答えると、剣様の端正なお顔がより一層歪む。
「でもまあ、」
剣様が少しだけ面白そうに笑った。
嬉しそうな剣様の声は、すっと身体に染み込むようだった。
「あなたには、ご褒美をあげないとね」
「え……」
キョトン、とする。
「ご褒美……ですか」
それってつまり、上手くイベントをこなせたから、剣様から私にご褒美……って事?
「そう、何がいいか、言ってみてもらえる?」
こちらを真っ直ぐに見た剣様が、私の表情を見てすかさず、
「聞いてあげられるかは、わからないけれど」
と付け加えた。
そんなに下心満載の顔をしただろうか……?
兎にも角にも、発言権は私のものとなった。
ここからの流れは、私に委ねられたのだ。
ガクリ、と床に膝をつく。
床に手をつき、頭を下げる。
「く……」
「く?」
4人の視線が、じっと奈子に注がれる。
「靴を、舐めさせてください!!!」
「却下」
剣様の却下の声は早かった。
「少しでいいんです!!!!」
「却下」
「……じゃあ、僕のでもいいかな」
と小節先輩が照れながら言う。
「それはないです」
と小節先輩を睨みつけた。
「二人とも却下」
剣様の声は冷たかった。
「気持ち悪いわね。生徒会にそんなはしたない人が2人も居るなんて思わせないでちょうだい」
私の懇願の目を避けるように、剣様はプイッと横を向く。
流石にこれ以上押す事は出来なかった。ご褒美だといっても。
それから、どこかのパティスリーで買ってきたお菓子のギフトボックスを持った川本さんが訪れ、丁寧にお礼をしていった事で、ご褒美の話は保留となってしまった。
「…………」
手に持った大きなギフトボックスをぼんやりと眺める。
中には、パウンドケーキやクッキー、マカロンなどの焼き菓子が詰まっている。
「これ、みんなで食べませんか?」
「あら、いいの?」
とすかさず言ったのは菖蒲先輩だ。ちょっと嬉しそう。
何処の社長かと思ってしまうような、大きな木製の会長机に座る剣様が、頬に指を当て、流れるような視線でこちらを見た。
「あら、それがご褒美って事でいいのかしら」
「な……っ、私が分けてあげる方なんだから、ご褒美とは別です!」
「あら。私達の時間を得ようとするのだから、ご褒美なんじゃないかしら」
ふふっと笑う。
なんて高貴な笑みだろう。
剣様とお菓子が食べられるなら、と了承の返事をしようとした直前で、
「冗談よ」
と剣様が面白そうに笑った。
とても美しい、触ると棘に刺されてしまう、まさにそれは薔薇の花。
そんなわけで、その日の放課後は5人でお茶会をした。
美味しくて、楽しくて。
こんな幸せが、この世にあるなんて、信じられない程の幸せだった。
どんなご褒美なら貰えるんでしょうね?