55 初仕事(3)
次、thereforeでまとめる、はずの。
その言葉は出てこなくて。
「however」
と話が続く。
え?
こんなフレーズ、直前の練習にだってなかったのに。
剣様の方を見ると、真っ直ぐと前を見て、いつものキリッとした顔でスピーチを読み上げている。
読み上げている、と言っても、剣様は原稿を覚えてから壇上に上がるから、ほとんど聴いている人の顔を見ながら話しているのだけれど。
目が合うわけじゃない。
けど、確かにスピーチを伸ばしている。
……私達の為に、スピーチを伸ばしてくれてるんだ。
胸にじんとするものが湧き上がる。
とともに、早く行かなくては、と足を早めた。
スピーチコンテストは、時間内に収める能力も見られている。
制限時間の5分以内に収めなくては、剣様が失格になってしまう。
そんなのダメだ。
去年だって、あれだけ輝いていた剣様が。
堂々と金のトロフィーを勝ち取った剣様が。
失格なんかになっていいわけがないのだから。
なんとか舞台袖に滑り込む。
そこでやっと、剣様の、
「In closing」
という締めの言葉が耳に入った。
振り返った小節先輩が、あからさまな喜びの表情で、フンスフンスと鼻を鳴らした。
「よくやったわ、朝川」
杜若先輩と菖蒲先輩が迎え入れてくれる。
そこでやっと、私はすぐそばにあった丸椅子に座り込んだ。
「は……はぁ……。よ、よかったぁ……」
安堵の声が出る。
どうやら思ったよりも、気を張っていたらしい。
舞台袖へ戻ってきた剣様が、私にとても勝気な笑顔を向けてくれた。
「よくやったわね」
その一言で、世界は薔薇色に変わる。
「え、へへへ。えへへへへへ」
照れた笑顔を浮かべるしか出来なくなる。
剣様のスピーチを聞けなかったのは残念だったけれど。
それでも、この剣様からもらった一言は、絶大な威力を誇った。
川本さんは間に合った事が嬉しかったのか、それとも追い詰められた結果か、スピーチの間中、ずっと笑顔だった。
ほにゃっとした笑顔で喋る川本さんは、練習していない分、少し辿々しい英語を披露したけれど、それでも印象は悪くないものだった。
スピーチコンテストの評価としては、それほど高くないものだったかもしれないけれど。
舞台袖に戻ってきた川本さんは、私の前で深々とお辞儀をした。
「こんかいはほんっとにごめんなさい!どうもありがとう!!」
「いえいえ。そんな〜」
本当に、剣様からお褒めの言葉を貰った事で、迷惑をかけられた事など、すっかりどうでもよくなってしまう。
最終的に、会場の椅子を全部撤廃し、片付けまで全てを終えた奈子は、最後に一人、会場の見回りをしていた。
椅子はちゃんと綺麗にしまってあるか。マイクはちゃんと片付けてあるか。
「よし!」
チェックシートを全てまるにして戻った生徒会室には、すでに生徒会の4人が揃っていた。