表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/120

55 初仕事(3)

 次、thereforeでまとめる、はずの。

 その言葉は出てこなくて。


「however」


 と話が続く。


 え?


 こんなフレーズ、直前の練習にだってなかったのに。


 剣様の方を見ると、真っ直ぐと前を見て、いつものキリッとした顔でスピーチを読み上げている。

 読み上げている、と言っても、剣様は原稿を覚えてから壇上に上がるから、ほとんど聴いている人の顔を見ながら話しているのだけれど。


 目が合うわけじゃない。

 けど、確かにスピーチを伸ばしている。


 ……私達の為に、スピーチを伸ばしてくれてるんだ。


 胸にじんとするものが湧き上がる。

 とともに、早く行かなくては、と足を早めた。


 スピーチコンテストは、時間内に収める能力も見られている。

 制限時間の5分以内に収めなくては、剣様が失格になってしまう。

 そんなのダメだ。

 去年だって、あれだけ輝いていた剣様が。

 堂々と金のトロフィーを勝ち取った剣様が。

 失格なんかになっていいわけがないのだから。


 なんとか舞台袖に滑り込む。

 そこでやっと、剣様の、

「In closing」

 という締めの言葉が耳に入った。


 振り返った小節先輩が、あからさまな喜びの表情で、フンスフンスと鼻を鳴らした。


「よくやったわ、朝川」

 杜若先輩と菖蒲先輩が迎え入れてくれる。


 そこでやっと、私はすぐそばにあった丸椅子に座り込んだ。

「は……はぁ……。よ、よかったぁ……」

 安堵の声が出る。

 どうやら思ったよりも、気を張っていたらしい。


 舞台袖へ戻ってきた剣様が、私にとても勝気な笑顔を向けてくれた。

「よくやったわね」


 その一言で、世界は薔薇色に変わる。

「え、へへへ。えへへへへへ」

 照れた笑顔を浮かべるしか出来なくなる。

 剣様のスピーチを聞けなかったのは残念だったけれど。

 それでも、この剣様からもらった一言は、絶大な威力を誇った。


 川本さんは間に合った事が嬉しかったのか、それとも追い詰められた結果か、スピーチの間中、ずっと笑顔だった。

 ほにゃっとした笑顔で喋る川本さんは、練習していない分、少し辿々しい英語を披露したけれど、それでも印象は悪くないものだった。

 スピーチコンテストの評価としては、それほど高くないものだったかもしれないけれど。


 舞台袖に戻ってきた川本さんは、私の前で深々とお辞儀をした。

「こんかいはほんっとにごめんなさい!どうもありがとう!!」

「いえいえ。そんな〜」

 本当に、剣様からお褒めの言葉を貰った事で、迷惑をかけられた事など、すっかりどうでもよくなってしまう。




 最終的に、会場の椅子を全部撤廃し、片付けまで全てを終えた奈子は、最後に一人、会場の見回りをしていた。

 椅子はちゃんと綺麗にしまってあるか。マイクはちゃんと片付けてあるか。


「よし!」

 チェックシートを全てまるにして戻った生徒会室には、すでに生徒会の4人が揃っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ