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54 初仕事(2)

「え……と、もしかして、今書いてます?」


 聞くと、実に真面目そうな女生徒の川本さんは、オロオロと目も合わせずに冷や汗を書いている。

 これはいよいよ、まずい……?


「あ、書き上がったんだけど。読んでて、なんかちょっと違うかなって。例えば、この子供と遊んだ経験談のところ。ここの文章ね。海外でこの表現はしないってこっちの英語ブログには書いてあるんだけど、こっちの現地の絵本にはこんな風に使ってて。どういう場合に使えるのか気になってしまって。それに、書き足したいところもあって。そんな事していたら終わらなくなっちゃって」


 う〜ん、なるほど、そっかぁ。


 川本さんを発見した事を菖蒲先輩にメッセージしておく。


 スピーチコンテストはあと5分で始まる。

 スピーチは、一人せいぜい5分くらいだ。

 前に7人いるから、40分は余裕があるとして。


「あと、どれくらいで終わります?」

「えっと……20……30……分?」


 これはもう、短く見積もってると思っていいかな……。


 とはいえ、気持ちはなんとなくわかってしまうから。

「お手伝いしますね!」

 と手を出す事にする。




 それから、

「ここの単語、えっと……」

「調べます!」

「この場合、こっちの単語がいいかな。コンサベーション……」

「調べます!」


 なんていう会話を何度かして、およそ30分後、その原稿は書き上がった。

 今から走れば間に合う!


「じゃあ、走ります!」

「はい!」


 ガタッ。


 と立ったまではよかったけれど。

「あっ!」

 と川本先輩が声を上げる。

「どうしました?」


 振り返ると、川本先輩が、また半泣きになっていた。

「足、痺れた……」


 まじか……。




 3分後。

 私と川本先輩が走り出した。

 時間的に、すごくギリギリ……!


 始まりの時間から、既に30分が経とうとしていた。

 最悪、最後に回して貰えばいいんだし。なんて思うけれど、そんな思考とは裏腹に心臓は緊張でバクバクと波打つ。

 そりゃ、プログラムはもう配ってあるから、コンテストという名目上、ちゃんとプログラム通りの順番で舞台に上がれたほうがいい。

 これでリタイヤ扱いになってしまっては本末転倒だ。

 そうでなくても、予定通り壇上に上がらないとなると、審査員の心象に関係するだろう。


 会場の入口を抜け、壇上が見えたその時だった。

 壇上に、剣様が立っているのが見えた。


 会場内は明るいというのに、大勢の人から注目されている剣様は、どう見ても女神だった。

 剣様が語るテーマは、『教育方法と能力差』というものだ。


 日本語ではなく、英語を話している剣様も素敵だ。

 流れるような声が、身体を通り過ぎていく。


 ああ。

 剣様になら、教育されたい……!

 とはいえ、見とれている場合ではない。


 何度か通しで練習している場に居合わせたので分かる。

 一言一句覚えている。

 これは、もうスピーチもまとめに入る直前だ。


 大変……!

 音を立てずに……!でも早く……!歩かないと……!


 スピーチが終わってしまう……!

川本さん、なかなかに呑気なお嬢さんなのでした。

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