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52 打ち勝てない

 お昼はいつも真穂ちゃんと食べる。

 けれど、真穂ちゃんが忙しい日は、一人で食べざるを得ない。

 姫野先輩の配慮で、ファンクラブから私に手を出してくる事はなくなったけど。とはいえ、教室はまだ居心地が悪いわけで。


 私は、珍しくお昼休みに生徒会室を訪れる事にした。

 ちょっと寂しいけど、トイレよりはマシ。


 お弁当を抱え、そっと扉を開け、中に入る。

 電気はついていないけれど、カーテンが開いているので陽光は十分。


 ソファに座ろうとした、その時だった。


 ビクリ、とする。

 ソファで眠っている人がいる。

 それが誰か、なんて、顔を見なくてもわかる。


 艶々とした長い髪。

 スラリとした手足。

 寝息で上下に動く胸元。


 剣様、寝ちゃってる……。


 今準備している英語のスピーチコンテストは、やることも少なくて簡単だって言ったくせに。

 それは生徒会の仕事の事で、イベントをまとめる生徒会長と登壇するためのスピーチの原稿を作る事を両立して簡単だと言えるほどには簡単ではない。

 副会長の小節先輩がかなり仕事を引き受けていると思っていたけど、何でも必死にやってしまう剣様の事だ。

 昨日の備品確認だって結局自分で行ってしまったし。

 今、テーブルの上にある英語の原稿は、一体何枚あるんだか。


 ポケットの中からチョコレートを数個引っ張り出す。

 こんなちょっとした甘いものが、気晴らしになればいいんだけれど。

 そう思いながら、テーブルにコロリと転がした。


 寝顔が、見える。


 するりとした顔立ち。

 なんて綺麗。

 触りたくなってしまう。

 その唇に触れたら、この人はどんな顔で起きるんだろう。びっくりするだろうか。それとも、いつもの様な顔で笑ってくれるだろうか。


 ドキドキする。


 手を、出すわけにはいかなかった。


 疲れているんだし、こんなにじっと見ているわけにもいかない。


 けど。


 目が離せなくて、あまりの美しさに腰が抜けて床に座り込んだ時。


 ふと、ソファの脇に揃えて置かれたローファーが目に入った。


 剣様の……靴。


 靴、なら、起こさなくても済む。

 触らなければ、大丈夫……。


 そっとそばに寄っていく。


 剣様の……。


 何かの魔法で引き寄せられるみたいに、顔を近づける。

 短い髪が、頬にかかった。


 鼻がついてしまいそうなほど近づいて、そのまま床に横たわり、目を閉じる。


 剣様…………。




 ふぎゅ。


 それからどれだけの時間が経ったのだろう。

 奈子は、頬が強い力で潰されるのを感じ、目を覚ました。


 状況判断と感触から察するに、頬を潰しているこれは、真っ白なスクールソックスをはいた剣様の足だ。


「あなたねぇ……」

 頭の上から、剣様の強い声が降ってくる。

「私の靴を抱えて寝るなんてどういう了見なの」


 むくりと起き、頬をさする。

「……触ってません……」


「ほとんど触ったも同然よ!」


「すみません……」


 剣様はぷいっと横を向いてしまったんだけれど、それもまた綺麗だと思った。

奈子ちゃんはちょっと変な性癖ですが、全年齢向けほのぼのラブコメです。

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