51 手紙の行く先
「えと、これも書記の仕事ですか?」
ある日の放課後。
手に持たされたのは、大小様々な紙の束。
手紙だ。
それも、『春日野町剣様』なんて書いてある、剣様宛の手紙。
ファンの子達からのファンレター。
ああ、私もけっこう書いていたなぁ。最近は書けていなかったけど、ファンクラブのメンバーだったのがバレてしまった今、ファンレターを出しても問題ないかもしれない。
なんて、感慨に浸るのも束の間。
「これをスキャンして欲しいの」
事もなげに言う杜若先輩の言葉に、キョトン、としてしまった。
「スキャン?」
「ええ、画像にしてタブレットに入れてしまえば、剣さんも読みやすいでしょう」
まあ、確かに?
「え、それって、今までもそんな風に渡してたんですか?」
「ええ」
それって……。
それって…………、私が今まで渡していた手紙も同じようにスキャンしたものを渡されていたって事で……。
それはつまり。
手触りがどうだとかで厳選に厳選を重ねたあの和紙や高級紙を選んだ意味はあまりなかったって事で。
香りがあると落ち着くんじゃないかって思ってつけたラベンダーやカモミールの香りが無駄だったって事で。
嘘嘘嘘嘘。
……香りってデジタルでコピー出来ない!?
出来ないか!!
そのあまりのがっかり加減に、生徒会室の床にくずおれる。
「よよよ……」
まあ、その香り付けまで含んで危険を排除しているって事か……。
「…………」
大人しく、スキャンを始める。
20枚、か。
同じクラスの人の手紙もあれば、中等部の子からの手紙もある。
「これって、今日だけの分ですか?」
「そう。まあ、選挙の結果が良かったから多い分と、あなたの事があったから減った分はあるわね」
減った分……。
確かに、知っている名前が少ない。
という事は、ファンクラブのメンバーからの手紙が減ったという事だ。
私を生徒会に入れた事で、あれだけファンクラブのメンバーを敵に回したんだ。
少しだけ、悲しくなる。
「手紙をくれた人のリストにも入力しておいて。全て剣様に渡すけど、攻撃的な言葉を使う人なんかのブラックリストは作っているの」
「そう……ですか」
そう言われて示されたノートパソコンの中の表計算ソフトには、確かにブラックリストなるものがある。
ドキドキ……する。
手紙に『キスして』なんて過激な事は書かないようにしていたはずだけど。
興奮して書いてしまった事がないなんて、自分では言い切れない。
私の名前、は……。
ブラックリストには、ない。
よかったぁ。
ホッとしたところで、改めて手紙を見ていく。
流石に、
『当選おめでとうございます』
や、
『応援しています』
といった手紙が目立つ。
「あ」
『剣様、大好きです』
から始まるラブレターの様なものが目に入った。
これも……渡さないといけないの……?
握りつぶしてやりたい……。
ダメダメ。これだって、誰かの大事な気持ちなんだから。誰かの気持ちを、第三者が握りつぶしていいわけがない。
けど、ライバルの手紙なんて握りつぶしてやりたい……!
モヤモヤとした気持ちのまま、手紙を見ていく。
『朝川奈子を、生徒会から外してください』
なんていう嘆願の様な手紙も2、3枚だけれど見つけてしまった。
「はぁ……」
苦しい。
スキャンしたデータをタブレットに保存する。
あとは、これを剣様に渡すだけ。
そこで、ふいっと横を向くと、いつも杜若先輩が居る場所で、剣様と目が合って、
「きゃあ!」
と大きい声が出てしまう。
驚きのあまり言葉を失う奈子に構う事なく、他の生徒会の面々は仕事に勤しんでいる。
「剣様……」
タブレットを手渡しながら、その目を見つめた。
心臓が止まってしまいそうな、深い深い瞳。
「好きです!!」
タブレットを受け取りながら、今度は驚かせた方の剣様が目を丸くする番だった。
剣様は「ふふっ」と軽く吹き出すと、偉そうな、でも優しさや何かが溢れてしまいそうなそんな顔で、
「知ってるわ」
と言ったのだった。
奈子ちゃんは、わきまえる事が出来るので大丈夫でしょう。うん。