50 始動
私、朝川奈子にも、新しい朝がやって来た。
今日から生徒会の一員になったのだ。
まあ正直、気分は複雑だけど。
状況的にOKしてしまって、何のしがらみも無くなって。
剣様のそばにいていいとなれば、もう喜ぶしかないけれど。
それにしたって、こんな簡単に、受け入れられていいんだろうか。
私みんなに……嘘ついてたのに。
色々複雑ではあるけれど、
「じゃ、それ持ってきて」
杜若先輩の言葉に、私は、
「はい!」
と元気よく応えるしかない。
階段の下に無造作に置いてある白い段ボール箱。
両手でなんとか抱えられるサイズかと思い、ぐっと手をかけてみるけれど。
「お……、重……!?」
ずっしりと重い。
「え、これ何が入ってるんですか!?」
前を行く杜若先輩は、手伝うわけでもなく、少し面白そうな視線を向けてくる。
「まだ、内緒」
ずし……っ。
階段を一歩上がる毎に、重みが増す様な気がする。
まさかこれ……嫌がらせじゃないよね……?
「ぬ〜〜〜〜〜!」
ずし……っ。
「ぐぬぬぬ」
ずし……っ。
ちょっと待って、男手はなんでないの!?
小節先輩は〜〜〜〜!?
そんなこんなで、なんとか生徒会室まで運び入れる。
「こっち」
菖蒲先輩が、作業机へと誘導してくれる。
結局、杜若先輩、歩調は合わせてくれてたけど、手伝ってはくれなかったし。
生徒会室には、小節先輩だって剣様だって居たのに。
期待の小節先輩は、ルンルン気分で、鼻歌なんて歌いながら壁に飾り付けをしていた。
幼稚園だか小学1年生だかの教室に貼ってありそうな折り紙でできた輪っか。それに、器用にも折り紙で折ったらしい薔薇なんかの花。
「…………?」
まるで、入学おめでとうとでも書きそうな、雰囲気。
当選記念かな。
なんて呑気に構えていると、菖蒲先輩が、
「こっち」
と、作業机の一角に案内してくれた。
……あれ?なんか菖蒲先輩、ちょっとテンション高い?
それは微々たる違いなのだけれど。
そしてすぐ、双子は私が運んできた白い段ボールをテキパキと開け始める。
「先輩?作業があるんなら手伝いますよ?」
不思議に思いながら立ち上がると、段ボールの中身が見えた。
ビンのジュースが2本。大きなペットボトルが4本。陶器のお皿が10枚ほど。それにカトラリーセット。
ちょっと高級そうなクッキーなどの焼き菓子の隣には、ケーキと思われる白い箱まで入っていた。
「……これは……」
「決起会よ」
長い黒髪を靡かせた剣様が言う。
「決起会……。生徒会の……」
「あなたの歓迎会も兼ねてるから、少し大袈裟になってしまったわ」
そう杜若先輩が言うように、生徒会室は気付けば、お誕生日会のようになってしまっていた。
「じゃあ、みんな、コップは持った?」
「はい」
剣様がコップを掲げる。
今まで剣様が座らないようにしていた生徒会長の席で。
その姿に、つい涙が浮かぶ。
生徒会長になったんだ……。
ちゃぽん、と濃い色のジュースが小さく波打った。
「この5人で新生徒会を運営する」
「え!?」
そこで声を上げたのは、紛れもない私だった。
「新入生、入らないんですか!?」
「朝川が通常の人間の5倍の速さで働いてくれるもの」
そう言いながら、剣様は偉そうな顔で私に向かってニヤリとした。
「いらっしゃい、朝川」
剣様の掛け声がきっかけになり、
「よろしくね、朝川」
「よろしくな」
と口々に声が上がる。
……ちょっと心配になっていたのが馬鹿みたいだ。
「よろしくお願いします」
5倍という言葉に複雑な顔をして見せたものの、正直、私は嬉しかった。
なんだ、私、ここに居ていいんだ。
生徒会の一員で、もう仲間なんだって、そう思えたんだ。
そんなわけで新展開です!
ピシッとした双子さんですが、杜若はちょっとお茶目、菖蒲はちょっと大人しいです。