47 返してもらおうか(3)
私……生徒会入るなんて言ってないのに!
そう思いつつも、その承認印が少しだけ私の心を温かくしたのを感じた。
嬉しくないわけない。
対峙した姫野先輩が傷ついた顔をした。
「こっちだ」
前後から飛び掛かられそうになった時、小節先輩が横に飛ぶ。
「!?」
飛んだ先は草むらだ。
驚いていると、そちらの方から声がした。
「朝川!」
「来て!」
見ると、杜若先輩と菖蒲先輩が、草むらを両側に押しやって手を差し伸べてくれている。
「せんぱ……」
涙があふれる。
きっと、双子の先輩に会えた事で、心のどこかが安心してしまったのだろう。
その手を取らない選択肢なんてなかった。
「せんぱいぃ……!」
二人の手を同時に取ると、二人は安心したような顔で、強気な顔をした。
ぐっと手を引かれる。
ガサガサガサ!と派手な音をさせながら、草むらを抜けたところで、先輩3人と一緒に生徒会室に向かって一目散に走り出す。
特別教室棟の入口にあと数メートルというところで、後ろからバタバタと足音がした。
こんなところで、負けるわけにはいかないのに……!
ここまで来たなら、剣様に会いたい……!
会いたい……!
「逃さない!」
と真後ろから声が聞こえた。
「きゃっ!」
その声に驚いて、足がもつれる。地面にズザッと倒れ込んでしまう。
縦ロールに襲われる……!
と思った瞬間、
「待ちなさい!」
と声がかかった。
東堂先輩達二人だ。
手には、先程の『新生徒会 推薦書』を掲げている。
「この子はもう、私達の仲間だから!」
菖蒲先輩が、会計と書いてある欄に、承認印を捺し、
「手を出さないでいただけます!?」
杜若先輩が広報と書いてある欄に、承認印を捺した。
「菖蒲先輩……杜若先輩……」
「私達には私達の、ケジメの付け方っていうのがあるの!」
姫野先輩が、苦しそうな顔で叫ぶ。
「ごめんなさい!」
奈子が、叫んだ。
思った以上に大きな声が出た。
立ち上がると、膝から血が出ている。膝をジンジンとさせながら、姫野先輩に向き合った。
「ごめんなさい、姫野先輩……!けど、私、捕まるわけにはいかないんです!あの日剣様に声をかけた事、後悔なんてしてないから……!」
姫野先輩の、苦い顔が見えた。
見たくない。見たくない。
もし、剣様が選んだのが私じゃなかったのだとしたら。
きっと、私があの立場なら、もっと酷い顔になってるはずだから。
気持ちがわかるだけに、辛い。
後ろを向いて、生徒会室に向かう。
階段を登りきったところで、後ろから、姫野先輩が、ゆっくりと追いかけてきた。
苦しそうで。
息も絶え絶えで。
ただ、泣いていた。
後のメンバーは、承認印に気圧されたのか、ついては来なかった。
姫野先輩もちょっと弱ってきましたね……。