46 返してもらおうか(2)
みんな思ったはずだ。
敵対しているとしても。
それが剣様が選んだ人間だというなら、迎えに来るヒーローはやっぱり剣様なんだって。
そして、そこまでこの件に嫉妬を覚えない者は、そのヒーローの様に奈子を掻っ攫う剣様の姿を目に収めてこの件は終わりにしようって。
けれど、現れたのは残念ながら、小節龍樹だったものだから、みんなは呆気にとられてしまった。
その小節先輩も、注目されて緊張したのか、めちゃくちゃに汗をかいてオールバックを撫でつけている。
その小節先輩を据わった目で眺めていた姫野先輩だったけれど、ハッとした顔をした。
「あ、あなたまさかこの人と……?」
その少し火照った顔でまじまじと奈子を見る目は、『なるほど!この人とお付き合いする事になったから生徒会に入る事になったのね!?』と言っているようだ。
「ち、違いますっ!私は剣様一筋です!」
言いながら、手をバタバタさせて否定する。
「ややこしいわね……!?」
そこへ、気を取り直した小節先輩が、私へ手を差し出した。
「行くぞ」
……顔はいい。
顔はいいはずなのに、めちゃくちゃに照れながら恐る恐る手を差し出してくる姿は、何故かイケメンとは程遠い何かに見えた。
「……私、生徒会には……」
「それは、春日野町が許せばな。どちらにしろこの場所は、話し合いというには少し燃え上がりすぎる」
小節先輩からなんだかクサい台詞が飛び出したところで、奈子は小節先輩の手を取った。
「逃さないで!」
姫野先輩の声が背中に響く。
廊下に出たところで、ファンクラブメンバーの早苗ちゃんが待ち構えていた。
少し引いたところで、早苗ちゃんは閉めた部屋のドアを抑えてくれる。
「早苗ちゃん……?」
「私は……!」
そこで、早苗ちゃんの瞳から、ポロポロと涙がこぼれた。
「剣様が選んだ人なら、仕方ないと思ってます。先輩とお話するのは辛いから、もう無理だけど。けど、剣様が選んだ人だから……!」
ずびっ!と鼻水をすする音がした。
「行ってください!」
自然と、私の目にも涙が浮かんだ。
「ありがとう!早苗ちゃん!」
とはいえ、中等部の女の子に数人の先輩を押し留める力はなく、すぐに後ろからドヤドヤと音がする。
追いかけて来る……!
階段を降り、昇降口から上履きのまま外へ駆け出す。
「待ちなさい!」
後ろから、姫野先輩の声がして、ザザッと前にファンクラブのメンバーが立ち塞がった。
あっという間に、追いつかれてしまった。
後ろには、姫野先輩率いるファンズサーティーのメンバーが5人ほど並んでいる。
捕まった……。
これで終わりかと思ったその時、小節先輩が、手に一枚の用紙をひらめかせた。
そこには、『新生徒会 推薦書』とある。
私の推薦書……!
姫野先輩はじめ、みんながそれに注目する。
小節先輩が、ドヤ顔で言う。
「朝川は、すでに生徒会の一員だ。見捨てることはない!」
ダン!
と、小節先輩が、副会長と書いてある欄の承認印を捺した。
新副会長の小節くん、高身長ヒョロヒョロ系男子です。