45 返してもらおうか(1)
「これは…………どういう事?」
姫野先輩の、冷静を装う声。
けれど、その動揺や怒りや嫉妬が、溢れる様に見えてしまっている。
「何、が……」
奈子は、そっとそのスマホの画面を覗いた。
それは、新生徒会に関するニュースだった。
そこには、『新生徒会 推薦書』と書かれている。
『書記 朝川奈子』
「え?」
目を疑う。
何これ?
どういうこと?
確かに、選挙で決められるのは生徒会長のみで、あとは基本的にその当選した会長の指名で決まる。
大体は、同じく生徒会で活動してきたメンバーがそのまま繰り上がるけれど、仲のいい親友や後輩達と、一緒に頑張ろうとする生徒会も、それはそれで楽しく活動出来ていた。
けれど。
それにしたって。
どうして私が?
まさか剣様が…………私を指名した………………?
その事に思い当たると同時に、喜びが湧き出てしまいそうになる。
姫野先輩が、
「あなたがどうして、新生徒会のメンバーに選ばれているの」
と口にした途端、部屋中から「ヒ……ッ」という声や明らかな悲鳴が、そこここで聞こえた。
「どうして……?」「え、剣様に……?」「なんであんな子が」「剣様に何したの」「剣様、騙されて可哀想……」
なんていう声が、頭の中をガンガンと流れる。
冷たい視線は嫉妬の色を帯び、困惑の視線は更なる困惑へ。
「私は、それについては何も知りません」
「…………んて……」
姫野先輩が、もうがまんならないという様子で呟く。
目にいっぱい涙をためて。
気持ちが分かる。
今まで仲良くやってきた仲間だから。
ファンクラブ会長になった時、気軽に剣様を追いかける事が出来なくなるんじゃないかって、少し憂いていた。
けど、会長に就任した直後、申請書を生徒会に提出する時、剣様を目の前にして舞い上がっていたっけ。
一緒にはしゃいだからよく覚えている。
「私だって……頑張ってきたのに……。あなたが選ばれるなんて……」
ポロポロと落ちる涙を、ツインテールで隠す様に泣く。
「それは……断りますし……。ファンクラブも辞めさせてもらおうと思います」
そう言った瞬間、姫野先輩はギッと奈子を睨みつけた。
「許さない」
「え…………」
「あなたなんか……!」
もう、そこには冷静さなんてなくて。
掴み掛かろうとしてくる姫野先輩をなんとか嗜めようとするので精一杯だった。
「待って!待ってください!姫野先輩!」
ガタン!と大きな音を立てて、誰かが立ち上がった。同じクラスの小泉だった。
「申し訳ないと思うなら、謝りなさいよ!」
ビクリ、とする。
分かっていても、ついこの間まで情報交換がてら一緒にお茶をしていた相手にそう言われると、心が折れそうだった。
それをきっかけに、また数人が立ち上がる。
「うちらの目の前で断れよ!」
「絶対許さないから!」
「ルール違反者のくせに!」
手が、震える。
「ご……ごめ……」
声が、声にならない。
真っ青な顔で、汗が頬を流れた。
その時。
バン!と大きな音を立ててドアが開いた。
「え…………」
「朝川奈子を、返してもらおうか!」
そこに立っていたのは、小節先輩だった。
奈子を含めた部屋中の全ての人間が、
『は?』
という文字を頭の上に浮かべた。
敵対してしまったとはいえ、みんな剣様に会いたかったはずです。