表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/120

41 ありがとうの言葉(1)

 まるで、一件落着のようだった。


 また、剣様が使っているという離れに帰り、和室へ座らされた。


「朝川?」


「あ、何ですか?」

 平静を装う。


 けれど、剣様も気付いてしまったらしい。

 私が少し落ち込んでいる事を。


「どうかした?」


 剣様の顔を見る。

 そうだ、言わなきゃ。


「あ、私、ここで、生徒会のお手伝いを終わりにしたいんです」


 ファンクラブのメンバーだという事が、剣様にもファンクラブのみんなにもバレてしまった。

 これ以上、剣様のそばにいるわけにはいかなかった。

 剣様だって、私がそばにいる事を、望まないだろう。

 こんな、いつだってその足を舐めたいと思っている奴のことなんか。


「ああ」


 実際、その話をした瞬間、剣様が一瞬、冷めたのがわかった。


「そうね、私としては、まだ引き続き生徒会に居てくれていいんだけれど」


 心臓が、高鳴った。

 ファンクラブのメンバーだっていうのは、黒田との話の時に、きっと気付いているはずなのに。

 剣様はそれでも、そばにいてもいいと言ってくれた。


 その言葉だけで十分だった。


 これ以上は、どうやったってファンクラブを敵に回す事になってしまうし、迷惑をかけないという信念は曲げたくはなかった。


「すみません。これ以上は」


 剣様の顔を見る事が出来なかった。

 きっとがっかりしている事だろう。


「そう」

 そう返す剣様の声は、ヒンヤリと冷たい。


 泣きそうになる。

 世界で一番大切な人に、こんな声を出させてしまうなんて。


「わかったわ。まあ、明日からは仕事もないし。来なくていいわ」


 ビクッとする。

 自分から申し出た事のはずなのに、心が冷え切ってしまいそうだ。


 きっと上手く笑えないだろうから。

 今にも泣いてしまいそうだから。

「すみません」

 逃げるように春日野町家を飛び出す。


 コンクリートの地面。

 誰もいない通り。

 右側には、まだしばらく春日野町家の塀が続く。


 一人歩くその場所で、もう我慢する必要もないのだと教えるように、涙はボロボロとこぼれた。


「ごめ…………っ、ごめんなさい、剣様…………っ」


 空を仰ぐ。

 涙は、こぼれるままにしておいた。


「何も…………出来なかった……っ!」


 そうだ。

 私は何も出来なかった。

 意気込んで剣様を引っ張り回した挙句、結果、私一人の力では、婚約を破棄してもらう事なんて、到底出来なかった。

 お願いする事しか出来なかった……!


「うえええええええええええん」


 私がいる事で、上手くいく事なんてなかった。

 迷惑かけてばかりいる。


 その瞬間、すぐ背後から声が聞こえた。

「あなた、私に謝らなければならない事があるようね」


 ゾクリとする。


「剣……様…………」


 なんでもお見通しとでも言いたげな、包み込むような声だった。


「『何も出来なかった』?」


 どうやら最初から聞かれていたらしい。

 真っ直ぐに見る瞳。

 私がこの目に、勝てるわけがないのだ。

逃げられたので追いかけてきたようですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ