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39 そこに愛はあるか(1)

 通された本邸の応接間は、高級感あふれるものだった。

 特別に物が多いわけじゃない。

 けれど、置いてある壺一つとっても、欄間一つとっても、価値的な事はよくわからないけれど、なんだかソワソワしてしまう。


 は、図らずも来てしまった。

 剣様の親とご対面……!

 なんだかこれって、娘さんをくださいスタイルじゃない!?

 台詞間違えないようにしないと。

『娘さんをください娘さんをください娘さんをください娘さんをください』


 こんな平日の夕方前だというのに家にいるという剣様の父親は、どうやら自宅のオフィスで一人で仕事をしている事が多いそうだ。

 剣様の父親は、仕事を切り上げて、目の前に座る。

 隣に居るのは剣様のお母さんだろう。立ち居振る舞いがそっくりだ。


「桜花蒼奏学園高等部1年、朝川奈子と言います」

 父親の方は冷めた顔。母親の方は少し心配そうな顔をしている。

「単刀直入に言います。娘さんを…………、婚約破棄してください!」


 一瞬、『ください』と言いそうになったけれど、なんとか持ち直す。


「どういう事だね?」


 ここまで突拍子もない話をしても、父親の方は流石に冷静さを欠かなかった。

「実はさっき学校に、黒田さんが来て」

 そんな出だしで、さっき見た事を話し出す。


 書類をぐちゃぐちゃにされた事。

 剣様を思いっきり叩いた事。

 私も叩かれそうになった事。


 母親の方は、ハンカチで口元を抑えた。

 けれど、父親の方は、眉ひとつ動かさず、


「それで?」


 と言った。きつい声だった。


「そういう人なので、婚約を取り消して欲しいんです」


「それで、あなたは一体誰なんだ」


「え?」

 唐突の質問に言い淀む。


「あなたが結婚するわけじゃないでしょう。なんであなたに家の事で口を出されないといけないんだ?」


「…………」

 奈子が口をつぐむと、それがチャンスだとでも言うかのように父親が話し出す。


「剣が言っているわけでもないでしょう。これは剣も納得している事だから。部外者に口を出される筋合いはないんだ。そもそも、どうして叩かれたのか理由はなんなんだ?叩かれるには叩かれるだけの理由があったんじゃないのか」


 厳しい顔をした父親に、流石の剣様も苦い顔をした。

 剣様が一歩下がり、申し出る。

「生徒会長選に出たというだけで叩かれたのです。事前に言っていたにも関わらず。殴る言い訳が欲しいだけなんです、あの人は」


 剣様が顔を上げる。

 それは嘆願の視線だった。

 苦く、それでいて信頼の気持ちも見え隠れする。


「私は、あの人とは結婚できません。婚約を、破棄させてください」

 頭を下げる剣様に弾かれたように、奈子も正座のまま飛び上がり、深々と頭を下げた。

「どうかお願いします」


 そう言う二人に、父親は侮蔑の視線を投げた。

想像以上に豪邸っぽいですね!

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