38 守りたいもの(5)
二人して、声のする方へ向く。
そこに立っていたのは、和服のお姉さんだった。
なかなかな年齢のように見えるけれど、和服の柄のせいだろう。
よくよく見れば、30……いや、20代でもおかしくない肌をしている。
母親ではないだろう。お姉さんがいるという情報は聞いたことがないけれど……。
「お嬢様、早く入ってください。そちらは、お友達?」
!?
『お嬢様』!?
なんと。
では、家政婦さんとか?まさか乳母とか?な関係なのか。
剣様は、格好をつけるようにすっくと立ち上がる。
「金杉」
金杉さん、というらしい。
名字で呼んでいるところを見ると、やはり血縁者ではない。
「お友達、というか、」
と困った顔で、剣様が私を頭の上から足の先まで一瞥した。
え、何その舐めるような視線……!ゾクゾクする……!
「後輩よ。生徒会の仲間なの。お通しして」
「はい」
金杉さんは始終、スンッ……という顔で、好意的ではないけれど、悪意も持ってはいないようだった。
「では、こちらへ」
と、塀の外側へ案内される。
「あの……?」
「……私が使っている部屋はあっちの通用門を使うの」
「あ〜あ!そうなんですね!」
豪邸では家の中の行く場所によって入る門も違うらしい。
東通用門から通された先は、普通に家だった。
いかにもな和風の家。玄関。
塀やその周りの庭は確かに高級感漂うけれど、家自体は、どこか昔ながらのアニメにでも出て来そうな、昔ながらの家だった。
引き戸の玄関を通される。
通された客間は和室だった。
小綺麗な調度品が並ぶ。
「金杉さん!」
金杉さんを呼んだのは、奈子だった。
「はい?」
「金杉さん!私、剣様のお父さんに会いに来たんです!」
「…………はい?」
困惑を見せた金杉さんは、剣様の顔を窺った。
「あら」
そこで、やっと剣様の顔がおかしい事に気づいたらしい。
「お嬢様?お顔はどうしたんです?」
剣様の顔はすっかり腫れていた。
左頬が真っ赤だ。跡が残りそうな程。
「ちょっと……」
剣様が気まずそうに頬を抑えた。
「とにかく、冷やさないと。話はそれからです」
そして、金杉さんは慌ててどこかへ飛んで行った。
結果的に、頬を冷やして気まずそうにする剣様と、必死に訴える私とを見比べて、金杉さんは剣様のお父さんのところへ飛んでいく事になった。
「どっちにしろ、そんな顔でバレないわけないんですよ」
と聞こえよがしに呟くと、剣様は女神のような顔を少しだけ歪めた。
本邸へ向かう廊下を歩く。
お屋敷はかなり和風の家だった。
錦鯉でも飼ってそうな小さな池とか。鹿おどしとか。
小さな小屋のようなものまであった。茶室か何かだろうか。
家自体は古そうで、とても広く、誰か知らないモノが棲みついても気づけないんじゃないかと思うほど。
そんな廊下を、気合いで鼻をフンフンさせながら、のしのしと歩いた。
家族はあまり正門を使いません。