表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/120

29 私の女神様(3)

「大丈夫?」

 誰かがそばに寄って来た。

 最初に、声をかけてくれた人の声だ。

 どうやら、2人?3人ほどで居たようだ。


 そちらの方をなんとか向く。

 この人は……。


「剣……様……」

 虚ろな目で見る。


 その人は、長い黒髪を持っていた。

 強い声。

 芯のある瞳。


 その立ち居振る舞いは、女神様の姿そのものだ。


 それは、確かに春日野町剣様だった。


「あら、私が分かる?」


 肩にそっと手が置かれる。


「震えてるのね。大丈夫よ。一緒に居た先生が、捕まえてくれたから」


「なんで……助けに来てくれるなんて……」


 本当に……、剣様が助けてくれるなんて……!助けてくれるなんて!助けてくれるなんて……!


 それは、ほんの一瞬の出来事だった。

 すぐに剣様は、

「ちょっと、そこの人。この人とは同じクラスかしら」

 と、通りすがった女生徒を呼び止めたからだ。

 見覚えのある顔。どうやらその子は私と同じクラスらしく、来た方向からしてまだ来ていない数人の様子を見に来たようだった。


「はい。……え、大丈夫?」


 私の姿を見たその子は、少し身を引いたけれど、すぐに私に寄り添ってくれた。

 剣様は、用事があると言って、私の事はその子に任せて、すぐに何処かへ行ってしまった。


「保健室、行ける?」

「うん……。ありがとう」


 そのクラスメイトが引くくらいには、顔が真っ青だったらしい。

 けれども端的に言うと、私達は保健室へは行かなかった。

 下駄箱に戻ったはいいけれど、既にそこに上履きが無かったからだ。


 きっと、さっきの男の子達が理科室へ向かう前に隠してしまったんだろう。

 いつもは近くに隠してある事がほとんどだからと、そのクラスメイトと一緒に探したはいいものの、上履きは結局見つからなかった。

 その上履きを探す間に私は落ち着いてしまい、保健室を必要としないまま、帰途につく事になったのだった。


 その親切なクラスメイトというのが真穂ちゃんだった。

 一歩間違えれば、もしかしたら剣様ファンクラブを抜けて真穂ちゃんファンクラブを立ち上げていたかもしれなかったその出来事は、私の中に深く根を張った。




 剣様に関する話は、それだけではない。


 剣様は、自分の目で見た事を学園に掛け合って、その男の子達3人のいじめ問題を大きく問題にしてくれた。

 いくらか質問される事はあったけれどそれだけで、その男の子達は翌日から学園へ来られなくなった。


 それから後、3人が退学する事になったと先生から聞かされた。


 私が剣様に心酔する事になったのは、ヒーローの様に助けに来てくれた事よりも、その後学園に掛け合ってくれた事の方が大きい。


 被害者の名前として私の名前を剣様の口から聞いた事はないので、きっと、私の事はどこかのいじめられっ子くらいの記憶しかなかったのだろう。

 それでもよかった。

 それでよかった。


 暫くして、私は肩より短く髪を切った。

 心機一転と言えばそうだし、引っ張られた記憶が余りにも嫌だったのもある。

 けれど、何より剣様に、あの時の子だと覚えてもらえているんじゃないかと、期待して待ってしまうのが嫌だったのだ。


 私が剣様の姿を覚えているなら、それでよかったのだ。

過去話はここまで。次回は現在の奈子ちゃんです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ