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27 私の女神様(1)

 ゴーンゴーン……。

 授業終了の鐘が鳴る。


 奈子は、無意識に涙を流していた。


 スマホに入っている剣様の写真を見てしまったからだ。


「何してるの……」

 そこで真穂ちゃんが、ドン引きした声で話しかけてきた。

「あ、真穂ちゃん……」

 涙を拭うと、真穂ちゃんはいよいよ本格的に引いていた。


 見られたのが真穂ちゃんでよかった。

 もしファンクラブのメンバーだったら、こんな正面からの写真を何処で手に入れたのか問い詰められるはずだ。


「感動しちゃって」

「しょうがないわね」


 真穂ちゃんは、ドン引きながらもこの愛情を解ってくれる数少ない友達だ。

 それというのも、今までの事を見ているからだと思う。それに言及する事はないけれど。




 中学受験の時、壇上に立つ剣様に一目惚れをした私は、この学園への入学を果たした。

 受験時の心の支えはもちろん剣様だ。

 その時は、まだそれほど学園の顔というわけではなかった。

 ただ、それでも入学案内の小さな写真に写っていて、その小さな写真を引き伸ばして壁に飾っていた。

 勉強に疲れ、顔を上げると剣様の顔があった。

 それだけで、人生は幸福で単純なもののように思えた。




 問題は、中学1年の時だ。

 学園に入学し、剣様のファンクラブに入った私は、有頂天になっていた。


 何もかもが楽しくて、授業でも張り切っていた。


 きっかけはあの日だっただろうか。

 クラスメイトの男の子達が、同じくクラスメイトの女の子を揶揄っていたのだ。

 それは、些細な事で、けれど『あいつの顔さぁ』なんて外見を揶揄するものだった。

「その話、つまんないけど」

 なんて、突っかかっていくまでに時間はかからなかった。

「あ?」

 揶揄っていた男の子達が、一斉にこちらを向いた。

「面白いだろ?」

「つまんないけど」

 私は、これ以上ないほど、冷たい顔をしてみせたんだ。


 その翌日だった。

「あれ?」

 朝、教室の机の中に突っ込んだ手に、ガサガサとしたものが当たった。


 え?


 くしゃくしゃになった紙、菓子パンの袋、飲み終わった後の牛乳パック……。

 机の中に、ゴミが詰め込まれていた。


 遠くから聞こえる小さな声、小さな笑い。

 その日から、ターゲットは私に変わったのだ。


 上履きは定期的になくなったし、見つかった上履きの中には、かなりの確率で画鋲が入っていた。

 ノートに落書きが書いてある事もあったし、移動教室の知らせが来ない事もあった。


 一つ一つは、それほど大変な事でははなかった。それほどの被害はなく、取り戻せるものが多かった。

 けれど、小さな事柄も積もり積もれば疲弊はするもので。


 おかしいな……。なんかご飯……美味しくないな……。


 生きている理由はあっという間に、なくなった。

次回も過去話!

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