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22 これは盗撮じゃないから(1)

 ファンクラブでは、もちろん剣様の写真をこっそり撮る、いわゆる盗撮は禁止されている。

 それによって剣様の写真は高値で取引されるものとなってしまっているのだけれど、それでも、授業中でも休み時間でも休日でも、気が抜けない程レンズを向けられる事に比べたらその方が平和だという事だ。

 それに、例え明示されず、お咎めもないものになったとしても、“授業中の剣様”だの“食事中の剣様”だのレアな剣様の姿は沢山あるわけで。結局それらの写真が取引される事に変わりはないのだ。


 もちろん、学生同士のそういった金銭のやり取りも問題になるわけだけれど、影でやり取りする輩はどうしても出てきてしまうわけで。

 完璧な規制など出来るはずもないのだ。


 私だって、剣様の写真が目の前にぶら下げられれば、何をしでかすかわからない。

 そりゃあ、毎日心のアルバムに剣様のお姿を収めているわけだけれど、それだって、物理的に置いておける写真とは別物なわけで。


 つまり、この朝川奈子だって、剣様の写真は喉から手が出るほど欲しいのだ。


 そんな状況での、剣様の写真を撮りに行くという話は、奈子にとってはそのまま昇天してしまいそうなものだった。


「春日野町先輩の写真、ですか。……会長選の?」

「ええ。選挙ポスターの写真、スタジオで撮ることにしたの」


 選挙ポスターは、校舎の下駄箱が置いてある玄関ホールに張り出されるものだ。

 文字だけでも手書きでもなんでもいいのだけれど、大体が本人の写真、活動の普段の写真、名前、公約などを書く事が多かった。


「確かに、春日野町先輩のポスターは、写真メインにすれば足を止める人が増えそうですね」


 この選挙の手伝いを始めて1週間と少し。

 剣様を褒め称え過ぎず、興味を持っている事を表に出し過ぎず、それでいてその溢れ出る美しさを褒める方法もなんとなく掴めてきたところだ。


「電車で3駅程のところよ」


「じゃあ、行きましょうか」

 なんて菖蒲先輩が言う。


 やばい。

 この人達と一緒に校門なんて通ったら確実に狙撃されてしまう。


「す、すみません。ちょっと寄るところがあるので、えっと……現地集合でもいいですか」


 剣様と一緒に歩くのは魅力的だ。

 けれど、それは一生叶わない夢だから。

 一生叶えてはいけない夢だから。


 剣様を崇めるファンとして。


 キスしたいとか、頭を撫でて欲しいとか、そういうものと同じだから。


「しょうがないわね」

 と、剣様がおっしゃって、特に突っ込まれもしないまま、一人、第三音楽室へ向かった。


 不審がられないよう、今でも定期的に第三音楽室の鍵は借りている。

 ドアをガラガラと閉めると、一人の時間だ。

 閉めた扉にそのまま寄りかかった。


「……はっ……、はっ……ぁ……」


 さっきの『しょうがないわね』はやばかった。

 あの流し目。

 靡く髪。


 心臓が、きゅっとなる。


 剣様のその顔を、何度も何度も思い出す。

 じっと自分を抱き締めてから、暫くピアノを眺め深呼吸すると、私はスタジオへと向かった。

安定の奈子ちゃん。

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