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20 見つかってはいけない(3)

 特別教室の校舎を出る。


 コソコソと周りを見渡して、誰も見ていない事を確認する。

 ここまで来れば、まさか生徒会室から出てきたなんて誰も思わないだろう。

 目指すは教員棟の窓口になってくれている教員、山田先生だ。

 部屋を借りる時などは、いつもこの先生がまとめている。


 放課後。

 遠くから吹奏楽部の空に響く管楽器の音と、中等部の向こう側にある校庭を走る運動部の掛け声以外はほとんど聞こえない。


 さくさくと、学園内を歩く。

 赤い煉瓦の道を辿っていけば、教員棟だ。

 この時間なら、山田先生は教員棟1階の教員室にいるはず。


 この調子なら、と思った矢先だった。

 この学園で秘密を持つ事が、どれだけ困難な事なのかを思い知らされる。


 教員棟の入口にいるのは、同じクラスの小泉だった。


 小泉は剣様ファンクラブ29番。ファンズサーティーの一人だ。

 それ以外にも何人か引き連れている。ファンクラブで見知った顔も、いる。

 とはいえ、ファンクラブでは何のイベントの予定もなかったはずだ。

 ファンクラブのメンバーを連れて個人的な交流会でもするつもりなのか、それとも剣様の布教でもするつもりなのか。

 相手が小泉では、早苗ちゃんのように誤魔化せはしないだろう。プリントを見て目的を話させて、後々本当かどうか確認するくらいする。

 実際にするかはわからないが、そんな危険がある人物だ。

 出くわさなくてよかったけれど、これじゃ教員棟には入れない。


 どうしよう……。


 近くの物陰に隠れたけれど、ここだって人通りがまったくないわけじゃない。こんなところでじっとしていると不審に思われるのに……。


 顔を見られないように、壁の方を向いてじっとした。


 教員棟なのだから、先生に相談程度の用事しかないはずだ。

 長居するはずがない。


 ただ……、問題があるとすれば、高等部に戻るのだとしたら、こちら側の道を通る可能性が高いという事だ。


 教員棟に入ったらしい一団は、しばらくして出てきた。


 こっちに来ないで来ないで来ないで来ないで小泉退散小泉退散小泉退散小泉退散。


 けれど、一団の声はこちらへやって来る。

 逃げ場は、ない。

 このまま帰ろうとすれば、後ろ姿で誰だかバレてしまう。

 声をかけられたら終わりだ。


 そこへ、颯爽と現れた人物が、奈子のプリントをサッと取って、歩いて行った。


 え?


 サイドテールをきっちりと三つ編みにした、東堂……菖蒲先輩だ。


「せんぱ……」


 菖蒲先輩が歩いて行くと、それに気付いた小泉達が静まり、口々に「こんにちは」と挨拶をする。

 ファンクラブメンバーにとって、剣様と一緒に居る生徒会メンバーは無視できないのだろう。


 菖蒲先輩はすんなりと通り過ぎ、教員棟へ入って行った。


 小泉は、奈子のそばを通り過ぎる時、訝しげな顔を向けたが、人を数人連れているからか、突っ込む事もなく通り過ぎて行った。


「…………」


 え?

 何、今の?菖蒲先輩がカッコよかった……。

 もちろん世界で一番カッコいいのは剣様に決まっている。

 けれど、作業をよく見てくれている杜若先輩とは違ってあまり関わりのない中でのこの登場は……やっぱり、カッコいいと思った。

気になって来てくれたのか、何かのついでだったのか。

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