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17 初めてのご褒美

 黙々と作業を続けた。


 報告書をまとめる作業は難しくはなかったし、手伝うと言っただけでこれほどの情報を見る事が出来るという事実にむしろ高揚した。

 生徒会室に入ってしまえば、夜遅くまでそこに居てよかったし、誰の目を気にせずに剣様のそばにいることが出来た。


 今までのいつの時よりも、姿を見る事が出来た。

 今までのいつの時よりも、声を聞く事が出来た。


 それも、予め決めてある台詞ではなく、感情を伴い剣様から発声される言葉を。


 もう、死んだってよかった。


「終わった……」

 カタン。

 奈子が鉛筆を置いたのは、翌日の放課後のことだった。

 みんな、先程帰ってしまったので、既に生徒会室はがらんどうとしている。

 もうすっかり夕方。部屋の中はすっかり暗くなっていた。


 ノート5冊を読み込んだせいで、目がチカチカする。

 目をぐしぐしと擦りつつ、書類とノートパソコンを片付ける。


 誰もいない部屋。


 ここでいつも剣様がいらっしゃると思うと、感慨深い。

 いつも座っているあのソファ。

 触ってもいいだろうか?頬ずりは?舐めるのはいいだろうか。きっといい匂いがするんだろう。あそこで寝たら、剣様に抱きしめられているのと同じことになるのでは?

 いやいや、怪しい行動は避けるべき。ここは純粋に剣様の手助けをする場なのだし……。


 目の焦点が合わなくなってきたところで、社長室のような扉がガチャリと開いた。


 ビクリ、と飛び上がったあと、そちらの方を見ると、夕陽に照らされた女神様と目が合った。


「え、な、なななななん……つ…………っ」


 剣様はそんな私を見て、ふっと笑う。

「私はプリントを出してきただけ。帰る前に、様子を見にきたのよ」


「そ、うだったんですね」

 顔を逸らす。自分の顔が、赤くなっている……気がする。


「終わったの?」

 テーブルに腰掛けた剣様が、報告書の束を手に取る。

「あら、大量」


「はい。少しでも、お役に立ててたらいいんですけど」


 ドキドキしながら反応を窺う。

 けれど、何の返事もないので、そろりと顔を上げた。

 そこには、報告書を掲げ、私を見下ろす剣様が居た。

 勝ち誇ったような顔で。

 私だけを見るその目に、心臓がギュッと掴まれたような気分になる。


 部屋に二人きり。

 剣様。

 剣様剣様剣様剣様剣様剣様剣様剣様剣様剣様剣様。


「大丈夫よ。正直、ここまでやってくれると思ってなかったわ。ご褒美をあげないとね」


 そう言った剣様が私の目の前に差し出したのは、1本の紅茶のペットボトルだった。


「え」

 そのペットボトルをまじまじと見る。

「私に、ですか?」


「そうよ」

 強気な声。


 この人は、本当に女神様だ。

 私みたいなただの手伝いにも、こうして気にかけてくれるのだから。


 おずおずと手を差し出し、そのペットボトルを握った。


 これは…………。


 ………………飲めない!


 神棚に飾っておかなくちゃ。神棚ってどうやって作ればいいんだっけ?ただ棚を作るだけで神聖なものを置いてもいいの?まさか剣様から贈り物がいただけるなんて……。


 どうやって鞄にしまおうか考えていると、

「飲んで?」

 と剣様から声が掛かった。


 ここで?今?


 その視線に、抗うことはできない。


「あ、ありがとうございます」


 パキパキっとペットボトルを開け、ぐいぐいと飲んだ。

 私は剣様には、きっと一生勝てない。


 剣様が買ってきた紅茶は、冷たくて、甘くて、優しい味がした。

今のところまるで犬と飼い主ですが、間違いなく恋愛ものです!

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