118 あなたと私でお揃いの(2)
「お邪魔します」
通されたのは、以前来た時と同じように、正門ではなく、剣ちゃんが使っているという東通用門だった。
ここが普通の玄関のように見える、よくある和風の戸建が、剣ちゃんが住んでいるという春日野町邸の離れだ。
玄関も、昔ながらのアニメに出て来そうな純和風の普通の玄関。
離れの中には、剣ちゃんの自室の他、応接間や台所、トイレにお風呂まであり、本当に普通の家というしかない。
通されたのは、台所だった。
キッチンも、どことなく昭和を感じさせる台所だ。
大きな食卓も置いてあり、そこで毎日剣ちゃんが食事をしている気配がある。
おばあちゃんちを思い出させる木製で小型の食器棚には、一人分の食器がちょこんと置いてあるばかりだった。
「使ってはいるのだけれど、食事を持って来てもらうだけの事も多くて」
にっこりと笑う。
いつもここで……一人で食事をしているんだ……。
剣ちゃんが使っているらしき椅子を見る。
この椅子にへばりついてもうここで溶けてしまいたい……。
そこで、剣ちゃんが買って来た食器を洗い出したのに気付き、慌てて自分も準備をする。
持っていた大きなトートバッグからケーキの箱を取り出した。
「ケーキ屋さんみたいな箱に入れるのね」
「そうなんですよ。まあ、まだデコレーションはしてないんですけどね」
中に入っているのは、朝早起きして焼いて来たモコモコのスポンジケーキだ。
「美味しそう」
剣ちゃんが、にっこりと笑う。
「デコレーションの材料も、完璧ですよ」
と言ってデコレーション用に作って来たもみの木のクッキーとサンタのチョコレートを取り出す。
「すごいわ。手作りなのね」
二人でデコレーションをしたケーキを前に、テーブルに座る。
クリスマスらしく、剣ちゃんがモデルのサンタさんと私がモデルのサンタさんが乗ったショートケーキだ。
「ちょっと待ってて」
と言って剣ちゃんが学校の鞄から紙の束を取り出す。
手紙……?
よくよく見れば、どれも見覚えのある手紙だ。
「私の……?」
「そうよ」
「だって、こんなに……!手紙は剣ちゃんの手には渡らないんじゃ……」
「渡る事もあるわよ。本人が望めばね」
「……じゃあ……付き合ってからこんなに集めたの……?」
「違うわ」
「じゃあ……」
おかしな期待を胸に、声が震えた。
その先の言葉を紡ぐのは、私には無理だった。
期待を口にしてしまえば、ボロボロと崩れていってしまいそうだったから。
そんな私に剣ちゃんは、ずずいっと寄ってくる。
私は、そんな剣ちゃんの顔を凝視するばかりだ。
「『こっち見て』だったかしら?『キスして』だったかしら?」
その瞬間、何かを悟った私の顔はこれ以上はないくらい真っ赤に染まった。
剣ちゃんが、私の肩に手を回す。
すると、チャリン、と首にネックレスがかかった。
アクセサリーショップで注文していたペアネックレスだ。二つはカチャリと組み合わせる事が出来る。
剣ちゃんは、対になっているネックレスを私の手に握らせた。
震える手で剣ちゃんの首にネックレスをかける。
「ずっと知ってたわよ」
と、剣ちゃんが、少し照れた顔を見せた。
「ハチマキにうちわに……」
「だって、そんな……」
「ずっと見てたわよ。可愛いなって思って。手紙何度も読んで」
「何言って……。つるぎ、ちゃ…………」
「もう、大好きなのよ」
その言葉に、抵抗する事も出来なくなる。立ち尽くす。
「キス、してあげましょうか?」
そう言って、私の顎を持ち上げた剣ちゃんの香りが私の鼻をくすぐって、私の頭はその瞬間爆発した。
次回、最終回です!最後までよろしくね!