117 あなたと私でお揃いの(1)
クリスマスがやってきた。
クリスマスイブには、学園のクリスマスイベントがあるため、剣ちゃんと一緒にいるのはクリスマス当日になった。
剣ちゃんは、あまり人混みには出ない。
必ずファンクラブのメンバーに、所在がバレてしまうからだ。
騒がれるのは苦手らしい。
とはいえ、そんな事に振り回されてばかりも楽しくないからと、堂々と遊びに出る事もある。
そんな例外の日が、今日だった。
注文していたアクセサリーを取りに行く。
そんな目的があるとはいえ、ショッピングモールを二人で歩くクリスマスは、およそクリスマスには似つかわしくないかもしれない。
クリスマス当日ともなれば、周りはすでに冬休み気分のファミリーばかりだし。
けど、付き合って初めてのデート、ということもあって、奈子は正直浮かれていた。
雑貨を眺めるフリをして、隣をこっそりと眺める。
ああもうこれって、デートって感じする!!
隣!隣に剣ちゃん!隣に!!剣ちゃん剣ちゃん剣ちゃん剣ちゃん!!!!
ハァハァと息が荒くなる。
とはいえ。
……剣ちゃんも浮かれてる、よね。
今日の剣ちゃんはちょっとおかしい。
いつも以上に手触りの良さそうなスルッとしたロングスカートがよく似合っている。
きれいな髪が今日は一際キラキラしているし。
それに。
「ふんふんふーん♪」
と小さな鼻歌まで聞こえるのだ。
……こっそり録音したら怒られてしまうだろうか。怒られてしまうだろうな。
注文していたアクセサリーを受け取ると、剣ちゃんは、
「じゃあ、食器も買っていきましょうか」
とにっこりと笑った。
「食器が欲しいんですか?」
ウキウキとしたまま剣ちゃんを見上げると、剣ちゃんはなんでもないように言ったのだ。
「あなたの食器よ。これから家でケーキを食べさせてくれるんでしょう?」
「ふぁ!?」
確かに、今日はショッピングの後、剣ちゃんの家で二人でケーキを食べる予定だ。
けど。
「流石に新しい食器だなんて……」
頭をブンブンと振ってみせる。
「私が、欲しいのよ」
「私の……食器ですか?」
「お揃いでね」
「お揃いの……」
剣ちゃんの家の食器棚に並ぶ二人分のお皿?コップ?スプーン、フォーク……。
剣ちゃんは家の離れのようなところに部屋があるし、そこに専用のキッチンでも持っていたら、二人分の食器だけが並ぶ空間、なんて事も!?
想像しただけで、ソワソワする。
剣ちゃんは、何も言えなくなった私に、
「奈子はこのピンクのシリーズが似合いそうね」
なんて勝手に話を進めている。
「申し訳なく、ないですか?」
「払いたい時もあるのよ。今度何か奢ってくれれば……」
「違います……っ」
思った以上に私が必死になってしまったので、剣ちゃんが困ったように笑う。
困らせたいわけじゃ……ないけど。
「私、そこまでしてもらう権利なんて……」
「権利?」
剣ちゃんは、そこでとうとうひとつ息を吐いた。
「あなたは、自分がどれだけ大事にされてるか、知る必要があるわね」
さて、クリスマスデートでラストに向かいましょう!