116 あなたに贈るプレゼント
「う〜〜〜〜〜ん」
ショッピングモールで、一人唸る。
剣ちゃんへのプレゼントって、何がいいんだろう。
なんと言っても、剣ちゃんはひたすらお金持ちなので、買えないものはない。
今までは、高級とはいえ、文房具や消耗品を贈っていた。
ファンクラブの一員でしかない私からのプレゼントは、保存しないものの方がいいに決まっていた。
けれど、今年は、剣ちゃんの恋人という立場なわけで。
恋人っぽいものがいいというか。
流石にスリッパではよろしくない絆があるというか。
むしろ……大事にしてもらえるもの……?
う〜ん、下着はどうだろう?
実は、ファンクラブの一員だった頃に、勢い余って剣ちゃんに似合いそうな下着を買ったことがある。
それも、一つは私と色違い。
「………………」
奈子は一人、眉を寄せる。
まさか、部屋に置いてある、プレゼントのつもりで買い溜めたものを渡すわけにもいかないだろう。
じゃあ……。
ちらり、と見た先はジュエリーショップだ。
しょ、将来を誓って……。
むしろ、私の人生を捧げる印として?
指輪、なんて……。
考えただけで冷や汗が流れる。
け、結婚したいなんて、そんな大それた事……。言えるわけがない。
ただ、剣ちゃんの奴隷としてでも。
春日野町家のお手伝いさんとしてでも。
あの人のそばには、居たい。
目の前で、ダイヤの指輪が光る。
ドキドキする。
剣ちゃんの、ためなら。
値札は……、いち、じゅう、ひゃく、せん、いちまん、じゅうま…………。
「あら、奈子はこれが欲しいの?」
その瞬間、耳元でそんな声がしたので、
「ぴゃああああああああ!!!!」
と、変な声が出た。
「つ、つる……つるぎ…………」
思い切り振り返ると、そこには剣ちゃんのニッコリとした笑顔があった。
「…………ちゃん」
驚いた顔のまま慌てて否定する。
「ち、違うの……!見てただけ……!」
「買ってあげましょうか?」
「違うの……」
「私は……、欲しいわ」
ビクン、とする。
「欲しい……?私……から?」
期待してしまう。
そんな事を言われては。
「あら、」
剣ちゃんは、スッとした瞳になる。
「他に、誰が居るのかしら」
剣ちゃんが、ぐっと近付いて来る。その距離、2センチメートル。
キスでもされるんじゃないかって距離で、剣ちゃんが凄む。
「あなたは?欲しくない?」
奈子の目に、ぐっと涙が浮かんだ。
だって、こんな事言ってしまったら、期待してしまう。
本当に、恋人の位置で、ずっと一緒に居られるんじゃないかって。
剣ちゃんがそう望んでるんじゃないかって。
期待するのは嫌なのに、素直に言うしかなかった。
「欲しい……です」
そこで剣ちゃんは、「ふぅ」と一つため息を吐いた。
「あなたって本当に……困った子ね」
嫌そうではない、その目は優しい。
「じゃあ、あれはどうかしら」
剣ちゃんが指差したのは、ダイヤの指輪からは少し離れたところだった。
さて、あと3話で終わるでしょうか。最後までよろしくね!