113 癒しの時間になるのなら
「ふぅ」
と、剣様が息を吐いた。
もうすぐクリスマス。
クリスマスとて、生徒会は暇ではない。
学園でクリスマスイベントが開かれるからだ。
それほど大きなイベントではない。
音楽堂で、劇や歌を見て楽しむような会だ。
合唱部や演劇部が中心で、生徒会はまとめ役をしているだけなのだけれど、それでも剣様への負担はなかなかのものだった。
「タイムスケジュールは完璧」
なんて言いながら、剣様はメモだらけのレポート用紙を投げ捨てる。
「あっ、ダメですよ!剣様。まだ終わってないんですから」
奈子はその捨てられたレポート用紙を追いかけて右往左往する。
何せ、ここは特別教室棟の屋上なのだ。紙なんて捨てたらヒラヒラとどこかへなくなってしまう事だろう。
私と剣様は、その面倒臭い仕事から逃れ、二人で屋上で上がって来ていた。
正直、こんな風に二人で過ごすのは初めてだ。
ほんの数日前、剣様のお宅にケーキを作るためお邪魔したけれど、基本的にお世話係らしき金杉さんが一緒だった。
拾い上げたレポート用紙をまとめながら、また剣様の隣に座る。
二人の間は50cmほど。
付き合う事になったからと言って、この距離が突然縮まるわけではない。
心臓はこれほどまでに、バクバクしているわけで。
空の色も雲の色もとても綺麗なのに。
とても綺麗なのに、剣様の存在があるっていうだけで、感覚の全てが剣様一色に変わる。
「完璧なんだから、もう後は誰がやってもいいでしょう」
そう言って、床に手を突いて剣様はこちらへ近付いて来た。
剣、様……?
何を言う間もなく、それが当たり前のように、剣様が私の膝の上に頭を乗せる。
「…………」
剣様に触れないように、両手を中空に上げるので精一杯だった。
え……!?え…………!?!?
どうやって触れないようにしても、膝の上に剣様の頭の重みがある。
あまりにも夢のようで直視できない現実を前に、目をぎゅっとつむる。
剣様が、この私の膝の上に居る。
あわわわわわ。
そっと目を開ける。
目をつむった剣様の顔が見えた。
あわわわわわわわわわ。
けど。
でも。
そっと薄目にして、剣様の顔を見下ろした。
なんて、綺麗。
ツヤツヤの肌。
サラサラの髪は、奈子の膝の上から落ちて、床に流れている。
そんな汚れそうな状態でも、何にも汚されない事がわかっているような、ゆったりとした表情。
長いまつ毛。
きゅっとした唇。
心臓が押しつぶされそうなくらいドキドキするけれど、剣様の顔から目が離せない。
止まりそうな心臓を抑えて、震える手を伸ばした。
剣様の髪に触れる。
サラサラとした髪を手で軽く梳いてみる。
触れた髪から、シャンプーの爽やかな香りがした。
やわら……かい……。
寝ているわけじゃないはずなのに、何も言わないんだな。
調子に乗って、頭を撫でる。
すると、剣様が目を開けて、眩しそうに笑った。
きっと、太陽が眩しかったんだろう。
そんな剣様の笑顔に、私は泣きそうな顔でなんとか作った笑顔を返したんだ。
ちょっとずつ普通のカップルっぽくなってきたでしょうかね。