111 恋人だから許される事
カチャリ、と社長室のような扉を開ける。
少し早く来すぎてしまったか、なんて思いながらふと見ると、ソファで寝息を立てている剣様を見つけた。
え…………。
心臓がドキドキする。
見ないようにしてジリジリと顔を逸らしたところで、私だけは見ていいんじゃないかと思い直し、剣様に向き直る。
黒くて長い黒髪。
整った顔を露わにして、スヤスヤと眠っている。
そして、奈子はふと気づいてしまった。
そばに、剣様の靴が置いてある。
ストンと揃えて置いてあるローファーだ。
…………もしかして、恋人なのだから、靴くらいなら……抱きしめて眠っても許されるのではないだろうか?
そんな事を思いながら、床にしゃがみ込み、剣様の靴ににじり寄る。
心臓が、ドキドキする。
そばで眠るだけじゃなくて……あの、靴に、触れる事が出来たら。
ああ、あの靴はどんな手触りがするんだろう。
あの、いつも剣様の足を守っている靴は。
じっ……と見つめる。
許しをもらった方がいいのだろうけど。
今、ほんの……少し、だけ……。
手を伸ばし、そっと、指先でローファーのつま先の部分に触れる。
ドキドキする。
うぅ〜…………剣様ぁぁぁぁぁぁ。
靴に鼻先で触れようとしたところで、奈子の頭の上から靴下の足が降って来た。
「うきゅ」
頭の後ろをグリグリと踏まれる。
この鋭い足捌き。
間違いなく剣様だ。
ああああ。
おでこに剣様の靴、頭の後ろに剣様の足…………!
「あなたねぇ……。ちょっと目を離すとこれだもの」
「剣様ぁ」
剣様が、「ふぅ」とため息を吐いた。
そのままそこで頭を上げると、床に座り込み、剣様を見上げる形になる。
剣様の呆れ顔。へへ。
「剣様」
呼ぶと、
「何よ」
と、返事が返ってくる。
「お願い、聞いてもらえますか」
「何?」
という剣様の表情を見ると、まんざらでもなさそうだ。
「もしかして……。靴を貸してくれる許可、なんて」
「いいわけないでしょ」
剣様が、そっぽを向いてしまう。
ちぇ。やっぱり無理か。
「じゃあ……」
ゴクリ、と喉が鳴る。
「剣様の足を舐めさせてください」
「……あなたねぇ、なんて事言うのよ!」
剣様の顔が赤くなる。
こういう剣様は新鮮だ。
その途端、剣様が私の上にのしかかって来た。
「まったく!自分がどういう事を言っているのか分からせてあげるわ」
言いながら、奈子の靴を脱がしにかかる。
「きゃあああ!ご、ごめんなさい剣様ぁ……」
すったもんだの末、長い黒髪をバサバサにした剣様と、片方の靴と靴下が脱げた状態の奈子が、床の上に座ったまま向かい合う事になった。
「もっとかわいらしいお願いはないの?」
剣様が拗ねた様子で言う。
「…………じゃあ、言いますけど」
「何?」
「クリスマス、一緒に過ごしたい、です」
おずおずと言うと、少し照れた剣様が、
「……まったく、しょうがない子ね」
と一言だけ返した。
この二人のイチャイチャ回、若干性癖が出てしまいますね。