110 あなたのために出来る事
「女神様じゃなくて、王子様だったってわけね」
そんな真穂ちゃんの言葉に、きょとんとする。
「王子様?」
「そう。だって、お姫様へのキスで……!キスで、目覚めさせたわけでしょう?」
そう聞いた瞬間、ぶわわわわっと奈子の顔が真っ赤になった。
「なっ……な……。なんてことを……っ」
奈子が手に持っていたボウルから、生クリームが弾ける。
ガッシャガッシャガッシャガッシャ。
真穂ちゃんが呆れた顔を見せた。
「飛んでる飛んでる」
恋人らしく、剣様の為に出来る事を考えた結果、まずケーキ作りから着手する事にした。
カレンダーを見れば、あと1ヶ月でクリスマス。
2月にはバレンタインだってあるじゃない!
今までも結婚を想定して料理の勉強はしてきているけれど、まさか実際にそんな機会に恵まれるかもしれないなんて。
というわけで、本日は第1回ケーキ試食会。
試食用の人員に、真穂ちゃんを呼び出したというわけだ。
お喋りしながらデコレーションをやっつけてしまう。
「まずは定番のショートケーキね」
と、苺の並んだ真っ白な生クリームのケーキをテーブルの上に乗せる。
「おお〜」
パチパチパチパチと、居間に真穂ちゃんの拍手が響いた。
直径12cmの小さなホールケーキだけれど、二人なら十分だ。
真穂ちゃんが持ってきた紅茶の葉で紅茶を淹れ、ケーキを半分に切る。
「いただきま〜す♡」
とハートマークが見えるほど嬉しそうな顔で真穂ちゃんが食べるのを見て、ひとまずは安心。
「やっぱり定番はいいわね」
満足そうな真穂ちゃんに、
「でしょう?あと、チョコレートのショートケーキと、ブッシュ・ド・ノエルのデザインを考えてるの。ブッシュ・ド・ノエルのデザインは二種類考えてて、かわいいやつと、大人っぽくバラを飾るやつ。出来れば両方とも試食して欲しいんだけど」
一息に言ってしまうと、真穂ちゃんが面倒臭そうに手を振った。
「デコレーションの為に二つ作るのはやめて。違うのは見た目だけでしょう?」
「見た目が違う」
真剣な顔でテーブルに乗り出した奈子に、真穂ちゃんはまた面倒臭そうに手を振った。
「わかったわよ。いくらでも持ってらっしゃい」
そして、真穂ちゃんは、幸せそうにケーキを食べた。
「それにしても、成長したわね。クリスマス、一緒に過ごせるなんて」
「…………」
奈子が、無言で口にケーキを運ぶのを見て、真穂ちゃんが固まる。
「……約束、したんでしょう?」
「してない」
「どうして」
真穂ちゃんがクピクピと紅茶をすする。深刻な声とは裏腹に、呑気な紅茶の飲みっぷりだ。
「…………年末年始は春日野町家の集まりがあるし、クリスマスの事なんて……。言い出していいのかわかんなくて」
「言っていいに決まってるじゃない」
「私は、恋人として支えたいだけで……、ワガママが言いたいわけじゃない。ただ……、ケーキとプレゼントの準備だけでもしたいの」
真穂ちゃんは何か色々言いたげな顔をしたけれど、結局何も言わなかった。
真穂ちゃんとは仲良しなんですよ!