表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/120

11 あなたに惹かれてしまうから(2)

「お弁当を食べに来たの?」


 え?


 剣様の言葉にハッとして、存在を忘れていた手の中のお弁当箱を見た。


「あ、そうなんです」

慌てて返事をした。


「そう。どうぞ」


 どうぞ?????


 剣様は、ベンチの空いた部分を示している。ベンチの空いた部分というのは、つまり剣様が座っているベンチの空いた部分という事だ。


 そこに座っていいという事?

 まさか、そこに座っていいという事!?


 まさか。


 そんな事をしたら、剣様に近付き過ぎる。剣様の香りだけでお腹いっぱいになってしまう。

 それに横並びだなんて。

 あ、地面に座って、ベンチをテーブルにする!?

 そうすれば、剣様よりは下位の者らしくなるかも。

 ううん。

 そんな事をしたら、剣様のおみ足のそばに座る事になってしまう。

 そんな事になったら、昂ってしまって仕方がない。


 けれどそんな事を考えている間に、剣様は、更にベンチの場所を空けた。


 心臓が激しくなる。

 バクバクバクバクバク。


 ベンチで横並び????

 これってつまりデートでは????

 このガーデンが見える場所で????


 え、ロマンチック過ぎでは??????


 つまり私…………デートに誘われたって事????


『そうよ!これはデートよ!』

『確実やな。よっしゃ。嗅いどけ嗅いどけ』


 緊張するけれど、隣に座る。


 ゴーンゴーンゴーンゴーン……。

 頭の中で、教会の鐘が鳴った。


 手が震える。

 けれど、お弁当を食べないのもおかしいので、その震える手のままでお弁当を食べ始める。

 普通のご飯、普通の卵焼き、普通のミートボール、普通の苺。

 ああ、もっと映えるお弁当を用意しておくべきだったんじゃない?


 そう思いながらも、卵焼きに手を伸ばす。

 ……美味しい。

 そうなのだ。お母さんの卵焼きは私好みなのだ。


「あの話、……誰かに声をかけてくれた?」


 ふいに話しかけられ、緊張する。


 声をかける……。といえば、前に話した人を集めるという話だ。

「すみません、誰も捕まらなくて」


 謝りはするけれど、“誰も捕まらなくて”は語弊があった。

 “誰も捕まらなかった”んじゃない。“誰も捕まえなかった”のだ。

 そりゃそうだ。

 知り合いが剣様と同じ空間で同じ空気を吸っているなんて。

 そこに漂っている二酸化炭素は、剣様の口から出てきた二酸化炭素だ。

 それはつまり、間接キスも同じじゃない?

 知り合いがそんな空間にいると思うだけで、その相手をどうにかしてしまいそうで嫌なのだ。

 絶対に許せない。


 そんなわけで、誰も誘う事は出来なかった。


「そうなのね」


 剣様は残念そうなお顔をされたけれど、こればかりは仕方がない。


「朝川さん。あなたは、部活なんかはやっている?」


 部活。

 私が入っているのはまさに『春日野町剣様ファンクラブ』なのだけれど。

 それを言うわけにはいかなかった。

 剣様本人を知らない人間の方が、こういう場合は剣様を安心させると思うのだ。

 それに、ファンクラブメンバーだという事が誰かの耳に入ったら、私は明日あたり地獄行きだろう。


「いえ……何も」


「じゃあ、あなたはどうなの?」


 剣様の声は、尋ねるというよりは少し高圧的な声で、私は一瞬、何を聞かれているのかわからなくなった。

段々普通に会話できるようになってきましたかね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ