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106 真っ暗な教室(3)

「…………」


 なんて言えばいいんだろう。こんな時。


 暗闇の中で、剣様の瞳が、ビー玉のようにきらめくのが見えた。

 剣様が泣きそうに見えて、引き寄せられるように近付く。


 そんな風に、悲しませる為に好きになったんじゃない。


「私……剣様には、幸せになって欲しいんです」


「…………幸せ?」


「はい。剣様に見合った誰かと」


 それは私じゃない。

 私が立っていい場所じゃない。


「あなたが居ないのに」


 それは、思いがけない言葉だった。


「私じゃ剣様を幸せになんて出来ませんよ」

 今度は私が自嘲気味に笑う番だった。


 剣様が、静かに立ち上がる。

 近付いてきた剣様は、威圧的だった。

「それは……、」

 剣様が、私の手首を掴む。

「あなたが決める事じゃない」


 ビクリとする。


「で……も…………」


「私が、あなたがいいって言ってるの。私が、あなたじゃないとダメだって言ってるの」


「わた……しは……っ」

 心臓が掴まれたようだった。

 逃げようとしたところで、手首を掴まれているせいでうまくはいかない。

「嫌…………なんです…………」

 涙が溢れる。


「剣様に、私のところまで、堕ちて欲しくなんてないんです…………!」


 剣様が、眉を寄せた。

「堕ちて……って……」


「剣様は……、女神様なんです……。私みたいな……、地面を這ってるような人間と、同じところに立って欲しくない……。ずっと空の上に居て、私はそれに救われてきたんです……」


 言いながら、それがわがままだという事が分かる。

 けど、剣様が私の女神様だったからこそ、私は剣様に救われてきたんだ。


「私は人間よ」


 ドキリとする。


 剣様が人間だなんて、それは当たり前の事実のはずなのに。

 私としては、否定すべき事実だった。


「私は人間よ!」


 剣様が悲痛な声で叫ぶ。


「私は、あなたと同じ人間よ!あなたの事が大好きなただ一人の人間でしかない!」


 手首を掴む力が強くなった。


「ごめ……なさ……」

 奈子が小さく呟く。

 そんなのわかってたはずなのに。

 どうしても、女神様で居て欲しかった。

 後ろに引こうとして、ガコッと机の一つにぶつかる。

 剣様の強さを前に、涙が自然にボロボロとこぼれた。


「私があなたをどれだけ好きで、あなたにどれだけ救われてきたか……!」


 私が剣様を救った……?

「何……言って…………」


「私は、ただあなたの事が好きな、17歳の女の子でしかないの」


 いつの間にか距離を詰めてきていた剣様の吐息が、耳元で聞こえた。

 ゾクリとする。


 溢れる涙はそのままに、身動きも取れずに剣様の吐息だけを聞く。


 剣様が私の顔を間近で覗き込んだ。

 深い瞳と長いまつ毛が間近に迫る。


「キス、してくださいって言ってたわね」


 心臓が飛び跳ねる。

「つ、るぎ……」

 その声は声にならなかった。

 剣様の鼻先が、私の鼻先に触れた。


「いいわ。してあげる」


 剣様の唇が、私の唇を塞ぐ。


「…………んっ……!」


 あれほど夢に見た剣様とのキスは、涙の味がした。

さて、この恋の行方は……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 剣様も17歳の女の子だったんですねー……。 察しの良いファンズ会員は「生徒会室の壁紙になりたい」派と「教室隅の綿埃になりたい」派で分派しそうです。
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