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104 真っ暗な教室(1)

「右手に風船左手に綿菓子でお茶なんかしてごゆるりと」

「見どころいっぱいですけど、両手に持ってたらお茶は飲めないんじゃありませんこと?」

 なんていう漫才のような放送部による放送が聞こえる。


 校内はそんな放送に負けず劣らずざわついて、お客を迎える準備に励んでいた。

 奈子も、プログラムを積み上げた案内所に立つ。左腕には、『生徒会』と書かれた腕章をつけた。


 文化祭当日。

「それでは現在、午前9時」

「そろそろお時間となりました。皆さん、準備はいいですか?」

 放送部の、二人の声が揃う。


「文化祭、スタートです」


 放送部の宣言で、文化祭が始まった。


 全部で3日ある文化祭は、高等部中等部合同で行われ、学園中がお祭り騒ぎになる。

 来賓を始めとした来場者も毎年1万人を超え、この辺りではなかなか有名なイベントとなっている。

 生徒達には、最後に生徒だけが参加する後夜祭も人気で、夜にはキャンプファイアーの中でフォークダンスも行われる。


 文化祭が始まってからは、怒涛のようだった。

 放送からのちょっと軽快な音楽の中、仕事は途切れる事なく続く。

 杜若先輩とペアで動いているはずなのに、杜若先輩は案内所から離れる事が出来ず、私は私で、道案内や迷子の対応に追われた。


 やっと休憩に入れたのはもう14時で、途中で買った大学芋スティックを休憩所となっているカフェテリアでなんとか口に押し込んで終わった。


 来賓の対応や参加団体の相談の対応に追われていた剣様とは、その日会う事は出来なかった。




「休憩、入っていいわよ」


 やっと1時間の休憩が取れたのは、2日目の昼過ぎの事だった。

 みんなやっと慣れたのか、1日目ほど問題が出なかったのだ。


 焼き鳥を食べ歩きしながら、一人学園内をまわる。


 いつもなら、剣様のクラスを始め剣様の参加企画をまわるのだけれど。

 ……今年は、そういうわけにもいかないな。


 剣様のクラスは、今年は演劇だ。

 剣様はクラスの方には参加しないと言っていた。

 剣様の事だから、準備に少しは参加しているだろうけれど、出演する事はないだろう。

 題材は竹取物語。面白そうではあるけれど。

 剣様の気配を追って観に行くのは、やはり気が引ける。


 今年は、暇になってしまった。


 ぼんやりと学園内をまわる。


 あ、あの喫茶店。


 と、つい目が行ったのは、この間剣様がメニュー表を見ながらニコニコとしていた喫茶店だ。


 そんな事を思い出して、ふいっと目を逸らす。

 何処を見たって、剣様の記憶ばかりだ。


 つい泣きそうになる。

 こんな事だからいけないんだ。

 私は、剣様の事ばっかりだから。

 剣様の事しか頭に無いから。


 剣様でいっぱいだったところを、別のモノで埋めなくちゃ。


 心臓を抑える。


 楽しそうなざわめきが聞こえる。

 勧誘の声。次何処に行こうかなんていう声。誰かが誰かを誘う声。

 喫茶店の看板の隣には、お化け屋敷の看板。

 美味しそうな匂い。

 綿菓子屋さん。オムライス屋さん。焼きそば屋さん。

 チャーミングなアリスの格好の女の子。ウサギの着ぐるみの男の子。


 ほら、世界はこんなにもカラフルで、こんなにも楽しい場所なのだから。

せっかくの文化祭イベントだけど、ローテンション奈子ちゃんです。

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