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103/120

103 いつもと同じように

 目を真っ赤に腫らしたままで学校に行くのと、1日休むのとどっちがましか考えた結果、学校に行く事を選んだ。

 もうすぐ文化祭なので、仕事に穴をあけられないというのが理由だった。

 こんな個人的な事情で、生徒会にまで迷惑をかけるわけにはいかなかったのだ。


 幸いな事に、そんな顔だった事と低すぎるテンションのおかげで、誰も何も聞いてはこなかった。

 剣様と出掛ける事を知っていた生徒会のメンバーでさえ、奈子に動物園の事を聞いてくる事はなかった。


 生徒会室の作業机の上に、昨日買ったクッキーが開いているのを見つけたけれど、それについて何も言うことは出来なかった。


 そういえば、お揃いのキーホルダーを何処にやったか覚えていないな、なんて思いながら、作業机につく。


「今日は私、プログラムの原稿を完了させる予定なんですけど、何か変更ありますか」

 声をあげて、生徒会のメンバーに確認を取る。


「ないわ」


 声の中に剣様の声を確認して、顔は見ずに作業を進める。


 ただ淡々と。




 気が付けば、夕陽が落ちる頃だった。

 最近は、文化祭までもう間近というところで、帰る時間も遅くなっていた。


 プログラムの原稿も出来上がり、先輩達の承認を得ていく。

 最後に会長に見せる為、剣様の前まで歩いていく。


 それが、あれ以来見る剣様の顔だった。


 作業でざわつく部屋の中。


「出来ました」

 と、一言口にする。

 他の3人の改善案が書いてある付箋については、すでに修正済みで、付箋だけがそのまま貼ってある状態だ。


 無言で受け取る剣様を眺める。


 そこで、そうか、と思う。

 返事をすると言っても、剣様を人前で呼び出すわけにはいかない。それをするには有名人過ぎる。

 かと言ってみんなの前で返事をするわけにはいかないし。

 実際、普段それほど二人きりになる事はない。


 機会があるまでは、話をするのは無理かな。


 書類を眺める剣様の視線が下を向いているのをいい事に、その姿をじっと眺める。

 ふいっと顔を上げた剣様に、少しだけ緊張する。


「問題無いわ」


 と言った剣様の顔があまりにも問題あり過ぎる顔だったので、私の心臓はドキリと跳ねた。


 剣様の眉は歪んで、今にも泣きそうな顔をしていた。


 ……こんな顔をする剣様は、想像したこともなかった。


 剣様が……私を好きな事で苦しむ姿を見たかったわけじゃないのに。




 けれど、それから話す機会は得られず、文化祭の準備だけは順調に、時間が過ぎていった。

 剣様との事で、心臓が跳ねたのもあの苦しそうな顔を見た時が最後だ。


 それからは凪の様に、私の剣様への想いは、静かに穏やかになっていった。


「いよいよ文化祭ね」

 杜若先輩が言う。

「はい」

 菖蒲先輩が、奈子の頭を撫でる。

「朝川は、頑張ったものね。文化祭は生徒会の中でも大きな行事だから、本番も気合を入れましょう」


 そして、文化祭がやって来る。

どこに誰のコメントがついてどう修正したのか分かるように、付箋は貼りっぱなしにしてあります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 生徒会の表に出さない会話 杜若「朝川の顔が『夜通し泣いてました』に見えるね……」 小節「それを言ったら、春日野町の無表情も大概だろう」 菖蒲「鉄仮面て感じ」 杜若「なまじ整った顔のひとが、…
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