101 それは幸せなはずだった
幸せで。
幸せで。
幸せで。
そのままこの1日が終わると思っていた。
閉園の音楽の中を、二人並んで歩く。
夕陽がせまってきているとはいえ、まだ空は明るい。
門を出たところで、途端に寂しくなる。
呼び止めたら、ご迷惑だろうか。
でも。
最後に、一言でも。
「剣、様」
声は、思ったよりも掠れて小さくなった。
思ったよりも緊張している証拠だ。
「私……。今日の事、一生で一番の思い出にします」
門の前にある噴水が、陽の光を浴びてキラキラと輝いた。
「私……!剣様と一緒に出掛けられて、嬉しかったです」
声が、震える。
「剣……様……」
視線が合う。
途端に、胸の前で組んだ手を、剣様に掴まえられた。
ビクリとする。
剣様の視線は、真っ直ぐに私の事を見た。
そして、剣様は、苦しそうで、それでいて泣きそうに、目元を歪ませる。
剣……様…………?
「朝川」
剣様は、私の名前を呼んだ。
どうして、そんな顔……。
見間違いなんかじゃない。
本当に、剣様は泣きそうだった。
その後の言葉は、聞きたくはなかった。
聞いちゃいけない気がした。
一歩身を引いたけれど、剣様は私の手を掴んだままだった。
「私はね、今日を一番の思い出にするつもりはないの」
「………………え?」
「あなたにも、今日を人生で一番にして欲しくない」
剣様?
剣様が、何を言っているのかわからなかった。
私は……あなたの事を一番の思い出にしたいのに。
きっと、こんな日は二度とやって来ないから。
「私はね、あなたと、また二人で、こうして出掛けたいの」
「それは…………私だって……」
言いながら、声が小さくなる。
視線を泳がせながら、剣様の表情を窺う。
剣様は、何を言ってるの…………。
「何度だって。何度だって」
これほど真剣な剣様を見るのは初めてで、混乱する。
「私はね、朝川」
何を言われているのかはわからなかったけれど、剣様は、綺麗だった。
ああ、けど。
怖い。
ここから先を聞くのが、怖い。
手が、震えた。
「あなたの事が好きなの」
「……………剣様……?」
「女の子として好きなの」
「何言って………………」
剣様のその目は、何か大切な事を伝えようとしていた。
その瞬間、世界が反転したように、目の前が真っ白になった。
「剣……様?やめて……くださ……」
世界を否定したかった。
その言葉を否定したかった。
けど、その言葉の意味は、その目と表情の意味は、どれだけ考えたところで、一つの意味しか持ってはいなかった。
足が震えるけれど、それ以上、剣様の声を聞くのはいけないと思った。
こんなのってない。
あっちゃいけない。
世界が、涙で歪んでいく。
なりふり構わず剣様の腕を振り払う。
何も見えなくなった目で、必死でその場から走り去った。
私は、剣様のそばから、命からがら逃げ出したんだ。
ちょっとラストが見えて来た、かな?まだ続きます!