100 動物園へレッツゴー(3)
昼食の後は、ウサギを見に行った。
「ちょうどふれあいタイムですね」
看板を見ながら言う。
ウサギやヒヨコに触れる時間が、1時間おきに設定されている。
どうやら四角く囲ってあるベンチに座っているのが参加者らしい。
子供もいるけれど、カップルや女性のグループもいるようだ。
「触って行くでしょ?」
と剣様に言われれば、言われるがまま、もうついていくしかない。
長いベンチに座る。
係員さんの手で、参加者の手に乗せられていくウサギにワクワクしながら、手を差し出し待っていると、不意に隣から、
「ひゃっ」
というかわいい声が聞こえた。
は?
「くすぐったい」
聞こえて来た笑い声は、間違いなく剣様の声だった。
ちょ……っ!
つ、剣様!?
戸惑う間にも、隣から幸せそうなクスクスという笑い声が聞こえる。
これって……私が聞いてもいいやつ!?
というか……、外で出してもいい声!?
かぁっと身体が熱くなるのを感じる。
とはいえ、剣様に「そんな声出さないでください」なんて言えるはずもなく、手の中の小さくモコモコとした動物特有の熱い体温を感じながら、ガッチリと固まっているしか出来ることはなかった。
地獄だった……。
いや、天国過ぎたのか……。竜宮城みたいだった……。
確かに剣様は、乙姫様の格好がよく似合いそうだ。
ふれあいタイムが終わる頃には、奈子はすっかり疲弊していた。
剣様と二人、アイスクリームなんて食べながら、秋の午後の日差しの中で、のんびりと過ごす。
きっと本当に、この動物園を出た瞬間にでも、世界は崩壊するんじゃないかな。
だって、こんな幸せな時間とは何を差し出してもバランスが取れないから。
横を見ると、剣様はお土産屋さんの方を見ているようだった。
「お土産、生徒会のみんなに買わないとですね」
「ええ」
剣様が、アイスクリームのコーンの最後の一口を口に押し込む。
剣様の長い指が、その唇に触れた。
その様子にこっそりとドキドキしながら、お土産屋さんに入る。
「みんなにはこれかな」
なんて、動物型に焼かれたクッキーを手に取る。
そこでふと、キーホルダーに目が行った。
思い出になるもの、何か欲しいな。
何も品物がないまま帰ってしまったら、きっと明日には『夢だったんじゃないか』なんて言い出してしまいそうだ。
写真なんかも全然撮ってないし……。
ウサギ……。ううん、トラかわいいな……。
なんてキーホルダーを物色する私の横に、剣様が顔を出して来た。
「それ、いいわね」
ビクリとする。
「か、かわいいですよね。このトラとか」
「トラいいわね」
「うん」と剣様が大きく一回頷いた。
「私もこれにするわ」
え……。
私“も”……?
それってつまり……お揃いって事……?
混乱するうちに、剣様は生徒会のみんなにお土産として選んだクッキー缶の他にトラのキーホルダーを二つ持って、レジへ行ってしまう。
あっという間に奈子の手の中に、トラのキーホルダーが収まる事になった。
「ふふ」
とイタズラっぽく笑った剣様が、自分のキーホルダーをコツンと当ててくる。
なんだろう、この状況は。
剣様が隣で笑ってる。
お揃いのキーホルダーを持って。
こんなに……幸せでいいのかな。
いいのかな。
この幸せがずっと続けばいいね!