添い寝屋黒猫と寂しがりの女の子
「うん、分かった。じゃあ、先に寝ているね」
お母さんから電話があって、お仕事が遅くなるってお話しだった。夜に電話があった時、嫌な予感はあったんだよね。
お父さんもきっと帰ってくるのは遅いと思う。
ご飯とお風呂に入って、パジャマに着替えて自分の部屋に向かう。
「あ、やっちゃった!」
テーブルに積みあがった手紙を落としちゃった。
封筒とかカタログとかお店のハガキとか色んな郵便物が積みあがっているけど、お母さんもお父さんもお仕事で忙しいから、開けないでそのままなのだ。
急いで郵便物をテーブルの所に積み上げる。多分、順番はバラバラだけど大丈夫だろう。
「ん? 何これ?」
郵便物と一緒に落ちていたチケットを見つけた。何かの割引券のような感じだが書いてある文字はお店の名前も割引の文字も無く、ただ【添い寝屋】と書いてあって黒猫の絵があった。
「【添い寝屋】? あなたが眠るまで寄り添います。チケットかな?」
券の文字を読んだけど、ちょっと不思議だった。
でも黒猫の絵は可愛かった。
夜十時、私はベッドに入って天井をぼんやりと見る。
時々、天井の木目がヌルヌル動いて、目玉になって私を見ているような気がした。
天井に目玉があるわけない! そう思って【添い寝屋】のチケットを出した。
ちょっと不思議なチケットだけど、黒猫が可愛いから部屋に持ってきてしまった。
ベッドに仰向けで寝て、チケットを見る。可愛らしいけど、どうやって使うのか書いていないな。
「【添い寝屋】か、ちょっと来てほしいなあ。こういう夜は寂しいもの」
六年生になったし、もうすぐ中学生だから、もう夜は一人で寝れるってお母さんやお父さんに言っているけど、やっぱり怖いな。
でもお父さんもお母さんも忙しいし、私も一人で寝るくらい頑張らないといけない。
「よいしょ、よいしょ、……うわああ!」
突然、ベッドの下から声が聞こえてきた。驚いて声がした方を見ると小さな黒猫が仰向けで倒れていた。
「え? 大丈夫?」
「大丈夫じゃない、ベッドに登りたいのに」
黒猫を抱っこして私の枕元に置いた。するとちょっと気取った感じで「【添い寝屋】のご利用、ありがとうございます」と言い、黒猫はちょこんと座った。
「え? 私【添い寝屋】なんて頼んでないよ」
「でもこのチケットがあるじゃないですか」
そう言って黒猫は私が持ってきたチケットを見た。
まさか本当に【添い寝屋】さんが来るんなんて。しかも小さな黒猫。この子に悪いけど頼りなさそう。
「これから僕が君を眠るまで添い寝してあげますね」
「……えー、大丈夫なの」
「大丈夫です!」
黒猫はフフンと胸張ってそう言って、私のお布団の上に丸くなった。
そんな姿が可愛らしくて、黒猫をゆっくりと撫でてあげた。すると気持ちよさそうに目を細めた。
「んー、撫でるのがうまくて僕が眠りそうだ」
「もう、しっかりして。これじゃ私が【添い寝屋】じゃん」
ちょっと呆れつつも黒猫の身体の暖かさが気持ちいい。
なんだろう、この子と一緒だったらこの家で一人でも怖くない気がしてきた。
「なんだか、君といるとちょっと安心するな。この家、一人じゃ怖くて寝れなかったけど、君と一緒だと私も眠くなってきた」
「僕も眠れそうだ」
「……ずうっと一緒だったらいいけど」
「僕もずっと撫でてもらいないな」
「うちの子になる?」
「なりたい」
そんなお話をしているうちに私もウトウトしてきた。目をつぶると自然と眠りに入った。
*
「んー……、あー、良く寝た」
ベッドの上には、もちろん黒猫はおらずチケットも無かった。
きっと夢だったんだろうな。でも気持ちのいい夢だった。ちょっとお調子者みたいな黒猫を撫でるのが気持ちよかったし、夜は寂しくなかったもの。
一階からソーセージを焼く香りがしてきた。お母さんがご飯を作っているようだ。
すぐに一階に降りて朝ごはんを食べようとリビングに行こうとしたら、玄関からカリカリッと音が聞こえてきた。
「何だろう?」
そっと玄関を開けると小さな黒猫が気取った感じでちょこんと座り「にゃあ」と鳴いた。
黒猫の姿に自然と笑みがこぼれる。
「おいで、いっぱい撫でてあげるね」
そう言うと黒猫は「にゃあ」と鳴いた。
この物語を持って添い寝屋シリーズ完結です。
今まで読んでいただき、ありがとうございました。