序章
【 】で囲んであるものはそれについての詳細を後書きに載せています
読みにくいかも知れませんがご了承ください
「トール様ぁ!…トール様ぁ!」
そう目に涙を溜め、己が主神へと呼びかけ続ける一人の幼い見た目の天使の子。
「…そうか、無事だったか…よかった」
そんな天使の子の涙を優しく拭いながら【北欧神・トール】は自身の最後を悟る。
【天界】へと押し寄せてきた【魔界】の住人である【悪魔】や【魔神】達は、始まりの天使と呼ばれる【始天使】が命を賭して発動させた【不天倒】により神々が持つ【最高にして最強の一撃】を防ぐ術を失い、戦争開始直後の優位を崩され撤退を余儀なくされた。
天界側にとって最早勝ち戦に思えたその戦争は何処からともなく姿を現し始め、後に【神代の負の遺産】と呼ばれる怪物達によって天界側は壊滅的な被害を受けこととなった。
その怪物の内の一体である【世界蛇・ヨルムンガンド】との戦闘で、トールは二度の神器の投擲によりヨルムンガンドの胴体の大多数を塵へと化したが、それでも尚止まることのないヨルムンガンドは己が持つ【世界蛇の絶毒】を振り撒き、その毒はトールが大切にしていた天使の子へと降り注ぐ。
神とその敵である怪物達との戦いに割って入るには実力不足が否めないその天使の子を庇い、トールはその身に世界蛇の絶毒を浴びながら三度目の投擲から手元に戻ってきた神器をヨルムンガンドの頭へと振り下ろすことで勝利はするものの、神の身体をも蝕み崩壊させる絶毒を解毒ことは出来ずその命の灯火は終わりを迎えようとしていた。
「私のことよりもご自身の心配をなさって下さい!このままでは…このままじゃ!!」
「私はもう持たない…自分の身体だ、よくわかる」
そう禍々しく変色しては崩壊していく自身の身体を見つめながらトールは伝えるべき言葉を脳内でまとめ、傍らで泣きじゃくっている天使の頭を優しく撫でる。
そして、視線をその背後に立っているもう一人の大切な天使へと向け、ふり絞る様に言葉を吐き出した。
「ウリエル、今まで通りお前はこの子の見本となり続けろ。どのような立場になろうとも、兄であるお前は妹であるこの子を守り通すこと、それだけは今この場で私に誓え。…そして、残存勢力を率いて天界を支え続ける。それが、強さを持ったお前の―【天使・ウリエル】へ与える天命だ。違えることは決して許さない」
有無を言わさぬ迫力で告げられた言葉の羅列を、ウリエルと呼ばれた天使は一言一句逃すことなく飲み込んでは「この命に代えてでも」と片膝を降折り頭を下げる。
今、自身の目の前で何が行なわれているのかを理解出来ないでいる天使の子は「な、何を…言っているのですか」と困惑気味にトールへと問いかけるも、その問いに対する答えはない。
天使の子の頭を撫でていた手をその子の頬へと移してはトールは再度言葉を絞り出す。
「まずお前には名を与えてやらないとな。これまで随分と不便を強いてきた…だが、そんな不便もこれで最後。最初で最後の贈り物とはなってしまったが、どうか受け取ってくれ。愛しい我が子よ」
そう天使の子の頬を優しく撫でて微笑みかけたトールは、未だ毒に犯されていない全てをその子に与えるべく魔力へと変え注ぎ込む。
「すまないな成長を見届けられなくて。だけど、お前なら大丈夫だ。何といったってこの俺の子だ。万に一つも心配などはありはしない」
既に余裕のないはずのトールは天使の子へとニカっと笑いかけ、蝕みを阻むものが無くなった世界蛇の絶毒は程なくして全身へと隈なく行き渡り、全てが塵へと化していく。
「後のことは任せた。俺の代わりにウリエル達とこの世界を守ってくれ。頼んだぞ―」
最後に告げるべき言葉も告げぬまま、トールはこの世に己が逸話と子だけを遺して消滅し、泣き叫ぶ天使の子とそれを抱きしめるウリエルの姿だけがその場には残っていた。
【人間】や動植物が生きる【現界】の地上から遥か上空に存在する神と【天使】が住まう天界。
その中で一際大きな建造物へと向け足を進めていた一体の天使は、現界の【日ノ本】で崇められている【四季神・依李姫】からの【神託】にその歩みを止めた。
『ミョルちゃん、聞こえていますか?』
「はい、聞こえていますよ依李姫様。どのような御用件でしょうか?」
『大切な議会の前だということは百も承知でのお願いなのだけど、今しがた大きな魔力の余波を検知したの。それとそれに触発されたのか、管轄区域内で多数の悪魔とその下位の獣達が暴れ始めたの」
「ふむ、わざわざそれを伝えたということは、代わりの天使では手に負えないということですね。わかりました、すぐに戻ります」
『さっすがミョルちゃん話が早い!天使長へは私から伝えておきますね』
その言葉を最後に神託が途切れ、ミョルちゃんと呼ばれた【天使・ミョルエル】は今しがた進んできた道を速足で戻り、【門番の天使】の呼びかけに短く言葉を返しては背中に生えた白翼を大きく羽ばたかせて現界へとその身を落とす。
やがて厚い雲の層を突き抜け、人々が暮らす街並みを次々に過ぎ去っては依李姫が土地神として鎮座する依姫神社へと身を下ろし、その敷地内へと足を踏み入れた。
「おぉ~お早い到着ですねミョルちゃん。後ちょっとだけ待っててくださいね。今、ある程度の位置を調べているところなので」
「急かすわけではありませんが、できるだけ早急にお願いします。でないとまた老勢の皆さんから口やかましく言われてしましますので」
「はーい」
そう間の抜けた返事をした依李姫は、引き続き【神力】をミョルエルが管轄する区域内を書き記した地図へと注ぎ込み、捕捉した魔力の発生源を絞り込みにかかる。
依李姫は【神】と一括りにはされど、過去に名を連ねた神々と比べその神力はあまり強いものではなく、それ相応の時間をかけなければならない。
その上、魔力の余波は直径十kmにも及ぶ広範囲であったため、絞り込めて尚区別のつけられない魔力の反応がその領域内に幾つか点在してしまっていた。
「うーんやっぱりこれ以上は変わりませんね」
「であれば、一つ一つしらみつぶしにしていくしかないです。最初はこちらに向かいますので、残りはそれを処理した後に詳しい場所を教えてください」
神力が幾つか小分けになって集中している場所の一つを指さしながらに告げたミョルエルは「何か変化があればその都度連絡致しますね」という依李姫の言葉を背に、依李姫神社から飛び立っては自身が指し示した場所へと向けて白翼を羽ばたかせる。
そうして初まった捜索が進展したきっかけは、その後五時間程たった頃に届いた一通のメールからだった。
・各地
【天界】
現界の遥か上空に存在する神々と天使が住む世界
通常、人間では存在そのものを認識できない
【魔界】
天界、現界とは隔絶された悪魔や魔神、その他下位の獣達が住む世界
【現界】
人間や動植物が住む世界
天界や魔界から干渉を受けるため、神の力無くしては人間の平穏は保たれない
【日ノ本】
現界にある島の一つ
他の島に比べ魔界からの干渉を多く受けているため、現界守衛第一隊と第八隊が守衛している
・種族
【神】
その本質は身体ではなく魂に由来しているため、基本的には不滅の存在
その為、魂を喰らう悪魔や魔神、神代の負の遺産が天敵と云える
【天使】
神から生み出される、または創り出された者達の総称
階級が定められており、上位に位置する天使に対し下位に位置する天使は逆らうことができない
【悪魔】
己が欲望に飲まれ、魔へと落ちた者達の総称
人間の欲望に答える事は彼らにとってメリットしか無い為、基本的には召喚に応じてくれる
基となる魔力が無い場合、存在を維持できない
【魔神】
悪魔が神の魂を喰らうことで己が存在を昇華した者達の総称
彼らは気まぐれで人間の召喚に応じ、その多くは召喚者の願いも叶えず代償だけを徴収する
悪魔同様に基となる魔力が必要だが、本体には魔核という魔力を生成する心臓を有しているため悪魔ほど外部的魔力を必要とはしていない
【人間】
現界に住む霊長類ヒト科の総称
微弱ながら魔力を有しており、感情によって増幅することもある
・神及びそれに由来するもの
【北欧神・トール】
北欧の主神の一柱にして北欧最強と云われている
【四季神・依李姫】
日ノ本において土地神として崇められている
現在はミョルエルが最も信頼し、忠義を誓っているが感情の大きさではミョルエルよりも依李姫の方が勝っている
【最高にして最強の一撃】
神々がその命を一部を使用して放つ一撃
【神力】
神が有する魔力の名称
ありとあらゆるものへと変換出来るとされている
【神託】
神力を情報に置き換え伝達するための御業
理論上全ての生物が受託できるが、ほとんどの人間は受託できて尚情報として処理できない為認識できない
情報として処理できた上で神へと自身の言葉を届かせることができるのは、そんな中でも一握りの人間だけ
・天使及びそれに由来するもの
【ミョルエル】
本作の主人公
トールの子ではあるが、その経由は不明な点が多い
【ウリエル】
ミョルエルの兄であり本作の天界最強の一角
【始天使】
神々が天使として創り出した中で最初に魂を宿した者
【不天倒】
始天使がその命を賭して放った術式
その効果によって天界に属する神と天使にかけれられた呪いを解除し、戦いを勝利に導いた
【門番の天使】
天界の東西南北に方角に建てられた門を管理、守護する天使の総称
その役割上、一定の強さが求められるため上位に位置する天使が任命されている
・怪物及びそれに由来するもの
【神代の負の遺産】
神代で暴虐の限りを尽くした怪物の総称
その存在への定義は上記のみであるため、必ずしも生物であるとは限らない
【世界蛇・ヨルムンガンド】
現界を取り巻くほどの体長を有する蛇の怪物
その巨体からは想像出来ない速度で動ける他、身に纏う鱗は物理的干渉以外を受け付けない、神ですら解毒不能かつ魂すらも穢し崩壊させる毒を生成できる等、確認しきれない程の多岐に渡る能力を有している
【世界蛇の絶毒】
ヨルムンガンドが24時間で0.1mlだけ生成し、蓄えることができる毒
その毒はありとあらゆるものを崩壊させる事ができ、それは神の魂という概念にすら反映される
固定後書き
当作品は、現在投稿している『天使のパラノイア』の章ごとの統括版です
こちらに投稿されている分を読み終え続きが気になる方は
以下のNコード及びURLから本編を追ってください
作品Nコード: N1476HG
作品URL: https://ncode.syosetu.com/n1476hg/
こちらは作者自身が読み返し、修正した章を随時更新していく予定です
本投稿とは違い、この日に投稿!とかはないですが
なるべく早期に現在投稿し終えている第十三章までの統括版を投稿したいと思っています
期待はしないでください