人魚の肉
人魚の肉を食べると不老不死になるという。各地に食べて800年生きた八百比丘尼の伝説が知られている。
とある地方をツーリングで回っている内に予約していた民宿に入り、夜、食事が出てきた。
――お客さん。本日は珍しい物が入荷してますよ。人魚の肉です。
人魚と言うが、半魚人の肉じゃないだろうな。クトゥルフの下っ端みたいな。私は箸が止まった。そもそも、人間みたいな存在を殺して食べようとするのが嫌だ。
「人魚っているんですか?」
――いますよ。たまに、ドジな人魚が網に掛かって出るんです。
不老不死になると聞いていたけど、土地の人は平気で食べているのか?
――私も千年前に食べたんですけどね。
「後悔してませんか?」
――そりゃもう。親しい人たちが先に老いて死んでしまうんですから。お客さんも無理に食べない方がいいですよ。
私は夕食に手を付けず、カップラーメンを食べることにした。麵のように長く生きたいが際限ないのは困る。
「そもそもなんで人魚の肉を客に出すんですか?」
――仲間が多い方がいいに決まってるじゃないですか。
敵が出来たらどうするんだ。いつまでも狙われ続けるのは大変じゃないか。
――それでも一人よりマシです。
そんなものなのか。私はそう思って、人魚の肉を眺め続ける。それは魚の肉と言うよりは哺乳類の刺身みたいで、やっぱり食べるのは止めとこうと思った。