2,黒い大男
30分の演奏が終わるとクリスマスカードが配られてテーブルでサイン会が開かれました。すっかりファンになったお客さんたちが列に並び、順々にお姉さんたちにサインしてもらって握手してもらいました。
ずうっと並んだ列の最後に、黒い大きな岩みたいにごつい男が立っていました。
黒い靴に黒いズボンに黒いコートに顔半分を覆う黒くて固いひげに後ろになでつけた真っ黒な髪の毛をしています。これまたぶっとい黒い眉毛をして、定規で引っぱったみたいな目をしています。
男の番になり、男はクリスマスカードを差し出しました。
「お名前は?」
真ん中に座ったリーダーのお姉さんにきかれて男は
「くろいわさんたろうです」
と答えました。
「くろいわさんたろうさんへ」
とマジックで書いて、3人順々にスラスラッとかっこいいサインをしていきました。
「ありがとう」
男は黒ひげの中でニカッと白い歯をのぞかせ、クマみたいに大きな手でお姉さんたちと順々に握手しました。
さてこれでサイン会も終了です。
ところが、男は立ち去らず、お姉さんたちに言いました。
「いやあ、実に素晴らしく楽しい演奏でした。わたしはすっかりファンになってしまいましたよ」
「まあ、そうですか。ありがとうございます」
お姉さんたちも嬉しくてニコニコしました。男はニカッと笑って言いました。
「そうなのです。そこでぜひ演奏のお仕事を頼みたいのですよ」
それは願ってもないことです。リーダーのお姉さんが言いました。
「いつ、どこにおうかがいすればいいのでしょう?」
「今夜、このすぐ近くです」
「今夜ですか?」
急な話でお姉さんたちは顔を見合わせました。男は心配そうにききました、怒ってるようにも見えます。
「ご予定がおありですかな?」
「いえ、新幹線で東京に帰るだけですけれど」
お仕事は嬉しいのですけれど、今演奏を終えたばかりですので、できたら今夜のお仕事はキャンセルしたいのが本当のところでした。でも男は、
「ちゃんと帰れるようにしますよ。えーと、ギャラはこんなところでいかがでしょう?」
と、胸ポケットから取り出した電卓を打って出演料を示しました。まあふつうの金額です。
お姉さんたちがあまり乗り気でないのを怒ったのか、男は脅すような気味の悪い笑顔を作って言いました。
「不足ですか? 申し訳ありませんな、わたくしどもも不景気でなかなか大したお金はお支払いできんのですよ。しかし」
ますます気味悪い笑いを大きくして言います。
「引き受けてくださったら、きっと、素晴らしいプレゼントを差し上げられると思いますよ?」
男は凄く大きくて怖そうな顔をしているので、お姉さんたちは顔で相談して仕方なく引き受けることにしました。男は嬉しそうに言いました。
「いやあありがとう。みんなきっと大喜びすることでしょう。うんうん、今から楽しみだ。うっふっふっふっふ」
男の笑いはとっても不気味で怪しい感じです。お姉さんたちは引き受けてしまってとっても不安です。
「それでは7時に屋上の駐車場においでください。車を用意しておきます」
今は夕方の5時になろうかというところです。男は上機嫌で言いました。
「それまでどうぞ、ショッピングを楽しむなり食事を楽しむなりしてください。では」
ていねいなお辞儀をして男は歩いていきました。