1,演奏会
*三人娘の正体は09,12,01付け活動報告をお読みください。
ここは3階建てのとても広くて大きいショッピングセンターです。中にはたくさんの店があって、レストランや映画館まであります。
今日は11月最後の日曜日です。店内はもうクリスマスの飾り付けでいたるところキラキラ輝いています。
広ーいショッピングセンターの、真ん中に、1階から3階まで吹き抜けの広場がありました。青や赤や黄に色が灯る大きなクリスマスツリーがあって、その横にイベント用のステージがありました。
今日は音楽のグループがイスに座ったお客さんたちを前に演奏しています。
ヴァイオリンを弾く三人のお姉さんたちです。
お姉さんたちはクリスマスにぴったりな赤いドレスを着ています。
ヴァイオリンというと難しい音楽のようですが、お姉さんたちの弾くのはシンセサイザーのリズムに乗せたポップで楽しい曲です。
一曲終わるごとに、イスに座ったお客さんはもちろん、2階3階の手すりから見ている大勢のお客さんが拍手しました。
お姉さんたちは
「ツインクル・ストリングス」
というグループです。
もともとは
「トゥウェルブ・ストリングス」
といって、ヴァイオリンの弦は4本ですから3人で12本、英語で12本の弦の意味でこの名前だったのですが、小さな女の子が間違えて
「ツインクル・ストロー・リング?」
と目をキラキラ輝かせて言ったので、それをとても気に入ってこの名前に変えたのでした。
今日もお父さんお母さんに連れられて小さな女の子たちがニコニコ楽しそうに演奏を聴いてくれています。
あんまり楽しいからでしょう、
お姉さんたちが演奏していると、一人の3歳くらいの女の子がステージの前に出てきて、お客さんの方を向いて自分もヴァイオリンを弾く真似を始めました。本人はすっかり本物のヴァイオリニストになりきってとてもまじめなものです。
お姉さんたちはもちろん、お客さんたちもニコニコして小さなヴァイオリニストのパフォーマンスを見ていました。
ところが。
女の子には5歳くらいのお兄ちゃんがいました。
このお兄ちゃんは妹がみんなにうけているのを見ると、自分も前に出てきて、妹のとなりで真似してヴァイオリンを弾き出しました。
ところがこのお兄ちゃんときたら、うけようと思ってまじめくさった変な顔をして、やたらと大げさな演奏をするものですから、お客さんがクスクス笑い出しました。
お兄ちゃんのお母さんは恥ずかしくてまっ赤になってしまいました。
大急ぎで前に来ると、パシンとお兄ちゃんの頭を叩き、席の方へ引っ張っていきました。すると一生懸命演奏していた妹が、自分も怒られたと思って「わあ〜〜ん」と泣き出してしまいました。
小さな子供は一度泣き出してしまうとなかなか止まりません。お母さんはまた慌てて前に出てきて女の子の頭を撫でてなぐさめましたが、「うわ〜んうわ〜ん」と女の子の涙は止まりません。けっきょくお母さんは女の子を抱えるようにしてその場を逃げ出し、みんなに頭を下げて謝りながら、
「こらっ、あんたも来なさい!」
とお兄ちゃんを呼んで、広場から逃げていきました。「うわ〜んうわ〜ん」と女の子の声はずうっと遠くになるまで聞こえていました。
お姉さんたちもお客さんたちも、おかしいやら、かわいそうやら、なんともへんてこりんな雰囲気の演奏会になってしまいました。