25-4. 様変わり
「……あったあった。ココだ」
4人と15頭ほどの幼犬ズを連れて行き着いたのは、大通りに面する1軒のログハウス。
マクローリンに着いたら真っ先にココに来る。そう決めていたのだ。
「どちらのお宅なの、ケースケ?」
「それは入ってからのお楽しみ。皆も会ったことある人ん家だよ」
「私達も会ったことが……誰でしょうか?」
「見当つかねえぞ」
「あ! ジイさまじゃない?」
……誰。
「こんな所に村長様はいませんから」
「ジイさまはうちの村から出ねえだろ」
「えー! でも居るかもしんないじゃん!」
あ、出た出た。彼らの故郷の話か。
もちろん違います。
「まぁまぁ。中に入ればすぐ分かるさ」
すぐ。声を聞けば一発で思い出すに違いない。
……久し振りの再会に少し心を躍らせつつ、『OPEN』との木札が掲げられたドアノブに手を掛けた。
チリンチリン
チリンチリン
「お邪魔しまーす……」
僕達を迎え入れる、気持ちのよい鈴の音。
ゆっくり扉を開きつつ室内をぐるりと見回す。
キャンプ場のバンガロー、まさにそんな感じの室内。
板張りの天井・壁・床、梁に使われているのは皮を剥いでツルツルの丸太。木材特有の温かみ、いるだけでもなんだか癒される。
玄関を入ってすぐの広いスペースは店頭のようで、これまた木製の長机には数々の工芸品。ピンと敷かれたテーブルクロスの上、値段や説明の書かれた札と一緒に整然と並べられている。
……のだが、肝心の店番の姿は見えない。
「あれ。誰もいないな」
「留守かしら?」
外出中かも。そうとも思ったが――――なんの事はない。
ほどなく、店の奥の方からクセの強い台詞が響いてきた。
「H・E・Y! ドア開いた音ォ お客様が訪問ォン 今行くぜ応答ォ! お待ちを少々ォ!」
……ハハッ、来た来た。
今日も調子良さそうだ。
「あ、この変わった喋り方」
「聞き覚えあんぞ!」
シン達の頭がピクッと動く。思い出したようだな。
奥の扉からの声は次第に大きくなり、ガチャリと扉が開いた。
「W・L・C! 魔道具工房ォ にようこそォ 何の御用ォで――――
出てきた同級生に、右手を挙げて挨拶。
「久しぶり。小作くん」
「……O・M・G。 誰かと思ったらァ ミスター数原ァ お前だったかァ!!」
驚きに喜びに、もともと明るい彼の表情が更に輝きを増す。
そう。マクローリンに来て真っ先に訪れようと思っていたのは、小作くんの働くこの工房だったのだ。
小作くんは、僕やアキと同じく非戦闘職の職持ち。魔道具職人となり、この工房で師匠のもと職人の腕とLvをひたすら磨いているそう。
戦いはできないけど、その名のとおり魔法で動くカラクリ道具『魔道具』を作っているんだって。
ただ、あからさまに明るい性格の彼にもちょっとした悩みが。『この世界』に勇者召喚されてきた同級生20人のうち、マクローリン住みが彼1人だったのだ。
ほとんどの同級生は王都に本拠地を置いているし、違うといってもフーリエに居る僕と加冶くんの2人くらい。おかげに他の同級生がマクローリンを訪れる機会もなく、この数ヶ月間は相当寂しい思いをしたんだろう。
そんな中、偶然やってきた今回の僕達のマクローリン遠征だ。何よりまずココに来るほかないよね。
ということで、僕達は店頭スペースの一角に設けられた席(商談スペースかな?)に勧められ。
僕達5人と小作くん、お茶を頂きつつ挨拶と休憩がてらお話することにした。
「H・P・Y! 会いたかったぜェ 待ってたThe Dayェ 今日は天晴ェ!!」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
「それにミスターシン・ダン、ミズコース・アーク! お久しぶりィ Oh Really Veryィ I'm so happy!」
「あ! 名前憶えてくれてたー!」
「こちらこそ嬉しいわ。ありがとう」
名前どころか、コースとはもう意気投合して「うぇーい」とグータッチの仲。
……もしかして僕より仲良いんじゃない?
「A・N・D! その長旅ィ を支えた足ィ がこのdoggyィ?」
「そうそう。我らがウルフ隊だよ」
あぁ、そういえば小作くんには紹介していなかったな。
「ククさん、皆、集合」
「「「「「ハッ」」」」」
旅の疲れでちょっとグダッとしていた彼らも、声を掛ければザザッと整列してくれる。
……ありがとね。挨拶だけ終わったらのんびり休んでくれよ。
「彼らが僕達の仲間、ウルフ隊。今は【演算魔法】で幼犬モードだけどね。……ククさん達はもう知ってるよな?」
「N・T・M・Y! 俺は小作ゥ! よろしくゥ!」
「「「「「何卒!」」」」」
自己紹介もひととおり済み、テーブルに並べられたお茶を啜る。
……うん、美味しい。旅の疲れと高原で涼しさからか温かい緑茶が身体に沁みる。
「ところでミスター数原ァ マクローリンにはいつ着いたんだァ?」
「あぁ、ついさっき。手紙で貰った地図をみて、北街道から直接ココに」
「T・H・X! そりゃお疲れだろォ わざわざご足労ォ ありがとォ!」
「いえいえ」
元気そうな小作くんの顔を見られて何よりです。
「いやー、それにしても小作くんの仕事場ってこんな感じなんだな」
「仰る通りィ ここが俺の本拠地ィ その名も――――M・M・M! Welcome to マクローリン魔道具工房!」
「へぇー。いい所じゃんか」
マクローリン魔道具工房、略してMMM。店名のイメージまでピッタリなお店です。
……それに、少し驚いたのは彼の様変わりだ。いつも渋谷ラッパー調の私服だった彼が、今やところどころ汚れた紺の作業着。腰に巻いた道具入れからはハサミやニッパーが覗き、胸ポケットにはペンと設計図、後ろのポケットには革手袋。もう職人が板についていた。
この数ヶ月間、寂しい思いの中でも相当苦労したんだろう。
「……『この世界』に来てから数ヶ月、小作くんも頑張ったんだね。お疲れ様」
「Y・U・P。まあな」
ちょっと照れ。
キャラの濃さに隠れて見えない小作くんの本音が今、透けて見えた気がした。
「B・T・W。ミスター数原ァ 1つご相談がァ あんだがァ」
「ん?」
すると、咳払いを一つして小作くんが話を切り出した。
「F・N・D! お前は本日ゥ から特別ゥ なClose firendsゥ!」
「いやいやそんな特別だなんて。たまたま立ち寄っただけだよ」
「B・U・T! 俺凄い嬉しい! だから受け取ってくれT・L・N!」
「……TLN?」
何それ。




