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25-3. 彫刻

人や馬車の合間を縫いながら、メインストリートを進む5人の冒険者と15頭の幼犬。

その視線はキョロキョロと定まらない。



「うわぁ……!」

「ずいぶん賑やかです!」

「こりゃ凄えぞ!」


なんたって右も左も1棟1棟が全部ログハウス。壁や床はもちろん木材の板張りだし、特に柱や梁はそのまんま1本の丸太だ。断面から顔を出す立派に刻まれた年輪がなんとも美しい。

窓も味気ないアルミサッシの引き違い窓とはほど遠く、「田」型の木枠がガラスを抱えるタイプ。開け放たれた窓から吹き抜ける爽やかな風が、窓際の鉢植えの葉を撫でて山々へとむかっていく。



「こんな家に住んだら……考えるだけで楽しくなっちまうぞ!」

「そうですね。昼はのんびりテラスで読書とか。……どうですか、メネさん?」

「いんじゃね」

「じゃー夜は暖炉の前でチェバとポカポカするー!」

「わん!」


通りから眺めているだけでも想像が捗る。

鉄筋コンクリートのビルばかり立ち並ぶ首都圏とはまるで違う、温かみに満ち溢れた世界。通りを行きかう人々の顔が皆穏やかそうなのも、気のせいではないのだろう。



「いいなー。僕もこういう所に住みたい」

「そうね。……けど今の、トラスホームさんが聞いたら泣いちゃうわよ?」

「あっ、いや」


しまった。つい本音が。



「違う違う、フーリエも最高だよ。住みやすいしご飯も美味しいし、CalcuLegaからは眺めも良いし」

「フフッ、分ってるって。私もこんなお家、住んでみたいなーって思ったしね」

「……」


……ちょっと掌の上で踊らされてる気がした。









そんな中、キョロキョロ動き回っていた僕達の目が1軒のログハウスに引きつけられる。



「うお、チェバみてみて! アレすごーい!」

「わん?」


コースが指差す先には、屋根付きテラスの軒下に設けられた木製のひな壇。その壇上には、様々な木彫りが大通りの人々に向けて並べられていた。



「へぇ、木像職人さんのお店か」

「沢山あるぞ……!」

「すごい。1個1個が全部手彫りなのね」


動物をモチーフにしたものをはじめ、花や植物、どこかの誰かをモチーフにした彫像も。中には木で樹木を彫るといった輪廻なものまで。

近づいて見てみると色々あって面白い。



「お。ククさん、狼の彫刻があったよ」

「何っ! (まこと)か勇者殿!?」

「おぅ。コレコレ」


後ろをヨチヨチ歩いていたククさん(幼犬モード)、彫刻見たさにヒョイヒョイと僕の肩に飛び乗る。



何処(いずこ)に?」

「ほらコレ。右から3個目のヤツ」

「……む、発見」


ククさんの鼻が嬉しげにクンと鳴った。



「しかし我等と相違なる体格。山育ちの同族と推測」

「ほぅ。山育ちの狼か」


確かにこの彫刻、心なしかククさん達より足が太いな。険しい山々に鍛えられた賜物なんだろう。

フォレストウルフならぬマウンテン・ウルフ、ってか。



「お! おい見ろよメネさん!」

「なに。でかぶつ」

「フクロウの木彫りもあんぞ! お揃いじゃねえか!」

「ばか。しねよ。ふしあな」

「えッ!?」

「そうですよダン! メネさんはミミズクですからね!」

「しねよ」

「ぐはぁっ……」


ダン、どんまい。






そうして一通り彫刻を見終えた僕達の視線は、自然と最後の1体へと移る。



「「「おおぉぉ……」」」

「コレは……」


見ただけで分かる。これこそが、この木像屋さんで一番の作品であると。

自らの腕を振るいに振るった、店のトレードマークにして渾身の傑作であろう――――トラの巨像だ。



「大っきいトラね……!」

「これも木彫りか。随分デケえぞ!」

「うおおお食われるー!」


掘りだしたままの大きな切り株、そこに前脚をついた木彫りのトラが大通りに向かって身を乗り出している。

鋭い眼光が睨む先は、通りを歩く僕達。太く尖った上下2対の牙を見せる口からは、今にもガオーと咆哮が聞こえてきそうだ。



「うわっ、凄い。近くで見ると細部まで手が込んでます」

「確かに。これが職人芸か……」

「信じられねえよ俺」


この巨大な木像、凄いのはサイズと臨場感だけじゃない。極めて繊細なのだ。

たくましい四肢、その先には繊細に彫り込まれた爪。ついさっき研いできたかのよう。背中の縞模様だって、毛並みだって、よく見ると全て彫刻で表現されている。

美術とかには全く知識のない僕でも、何だかまるで電気に身体を震わされるような感覚。

感動した。




……いやはや。門を潜ってちょっと歩いて作品を眺めていただけなのに、まるで街中の職人から出迎えを受けたかのような錯覚。

こんな作品こそが、何よりの『職人の集う街にようこそ!』っていうメッセージなのかもな。











その後も、左右に軒を連ねる職人工房や店を眺めながら大通りを進む僕達。

紡績職人、石工職人、紙漉職人、墨画職人、陶芸職人、硝子職人、褒讃職人、彩絵職人、設計職人、鉄器職人……本当に『職人の集う街』ともあって、見ても見ても飽きない。

山岳都市・マクローリンの面白さを知った僕達、早速この町のとりこになりそうだ。




……そんな中。


「おっ。宝石職人の工房みっけ」

「本当ですね」

「おおーキレイじゃーん!」

「わん!」


門からずっと歩いてきた大通りが、これまた別の大通りと交わる交差点。その角に建つ宝石職人のお店が目に飛び込む。

ログハウスも悪目立ちしない程度にカラフルな装飾。センスを感じる。



「えらい派手だな!」

「ケースケ、このお店知ってるの?」

「いや。初見」


初見ではある。……けど、知らなかったワケじゃない。

()()()()()()()からね。

この派手派手な宝石職人の工房が見えたら――――




「ココで右折!」

「え、右ですか?」

「こっちか?」


その通り。

4人と15頭の幼犬と一緒に右向け右。

直角に交わる方の大通りに入る。




「ふーん。コッチ何があんだろー?」

「ねえケースケ、どこに向かってるのかしら?」

「フフーン。それはねー…………」

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