6 彼女への招待券
前期のピアノの実技試験が終わった。
槇先輩はもちろん、俺も優秀者演奏会に出演できることになった。各学年から数人ずつ選出された学生が出演し、学外にも公開される。
掲示板に名前が貼り出され、指示された通りに放課後に事務室に行くと、大きな封筒をもらった。中には、演奏者の顔写真入りのチラシと、赤いスタンプが押された招待券が10枚入っていた。これを売ってお金を受け取ってはいけないらしい。招待券が手に入るのは、演奏会に出演する学生が持っている10枚だけだ。他は有料となる。学生の演奏会だから高額ではないが、お金云々よりも、目当ての演奏者から受け取りたいものだろう。
その場には、槇先輩もいた。
「槇先輩、一緒に出演させていただけること、光栄です」
「高橋、よかったな。心配なんてしてなかったけど」
「いえ、そんな。それよりこれ、先輩は誰に渡しますか?教授の分は取っておきますか?」
「あ、教授とか先生はチケットいらないから大丈夫。全部好きに配っていいよ」
どこから湧いてきたのか、俺達の回りには女達がわらわらといっぱい集まっていた。何だこれは。
「はい、僕から欲しい人はここに並んで。高橋から欲しい人はこっち」
槇先輩の一言で、女達が黙って素早く動いた。瞬く間に綺麗な二列ができた。すごい!教育が行き届いている!俺は感心した。
当然だけど、槇先輩の列はあっという間に長い行列ができた。先輩は、渡された封筒からチラシとチケットを出して、一枚ずつ渡しながら普通に「ありがとうございます」と言っていた。目がハートになっている女達に対して、先輩ときたら何とも色気のない……。
俺の列の最初には、あのノートの女が並んでいた。
「ありがとう」
俺はそう言ったが、その女の目は先輩に対するハートになっていた。事実、こんなにたくさん並んでいたって俺達二人で20枚、つまり20人。チケットはすぐになくなった。
先輩は、
「……君で10人目。ありがとうございます。この後の方々、大変申し訳ない。事務室で有料にてお求め下さい」
と皆に言い、11人目の女とそれ以降に並んでいた女達を「こちらへどうぞ」と事務室の窓口に並ばせた。
何一つ揉めることなく、騒ぐ女もいなくて鮮やかだった。
えっ?ちょっと待て……。先輩は数えながら10枚渡していた。彼女に渡さなくてよかったのか?ここで言うのはまずい。
俺は、先輩が一人になってから聞いた。
「先輩、『生徒』さんのチケットは?残しておかなくてよかったんですか?」
先輩は余計な業務があったせいで無駄に疲れていたみたいだった。
「え?あぁ……いいんだ。去年大変だったから」
「そうなんですか。僕も去年聴きに来ましたが、わかりませんでした。お会いしたかったな……」
「お疲れ様、高橋こそ10枚皆配ってあっという間だったね。よかったのか?」
「えぇ、僕は特に……」
チケットは渡したし。