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先輩の彼女  作者: 槇 慎一
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4 先輩のようになりたい


 槇先輩は大学内でも人気だった。先輩のファンは大勢いたが、俺もそれなりに人気が出てきた。学食やロビー、談話室では「槇派」と「高橋派」、「慎一&慎二」などという単語を聞くようになった。


 俺は槇先輩を見習って、練習はもちろん勉強も手を抜かなかったが、女に優しくしない槇先輩とは対称的なキャラクターとなった。部活や大会でアイドルのようだった兄の真似をして、笑顔で手を振るだけで女達はキャーキャー言った。女達は別に本気じゃない。俺も本気じゃない。楽しく、テンションが上がるならいいことだ。


 授業は一番前の席で聞き、授業の後で先生にすぐに質問ができるようにした。女達はそこまで追って来ないから静かだったのもある。

 ある時、一般教養科目で珍しく隣の席に座ってきた女がいた。一般教養科目は学生の人数が多く、大きな教室で行われる。俺はそういった科目も一番前の席で勉強していた。


 その女は、俺のことは知らないようだった。ミーハーな女ではなさそうだ。俺は、前回までの授業をまとめたノートと、予習したページを確認した。


 隣の女が「すごい……」と言ったのが聞こえた。槇先輩だったら無視しただろう。俺は「僕?何が?」と聞いてみた。

「まとめ方、上手ですね。あの、前回のところ、見せてもらえますか?」

「いいよ」

 俺は快く貸した。多分俺の顔は見ていない。熱心にノートを見て、自分のノートに何かをメモしていた。

「まだ試験もないだろうし、よかったら来週まで貸すよ」

「えっ?いいんですか?」

「うん。いつもだいたい前に座ってるから」

「ありがとうございます」

 名前も聞かれなかったし、俺も聞かなかった。


 授業はまだ始まらなかった。誰かが「あ、槇先輩」と言ったのが聞こえた。一般教養科目は一年生だけではない。先輩も今年はこの単位を取るんだ。教室じゅうの女達が、槇先輩を見るために後ろを振り返ったに違いない。


 隣の女が後ろを振り返った。槇先輩のファンか……。俺は自分が自惚れていたのを感じた。槇先輩のことは知っていても、俺のことを知らない人はたくさんいる。当然だ。それにしても……隣の女は長いこと後ろを振り返ったまま、授業が始まるまで前を向かなかった。


 俺は不快になったわけではなかったが、少々もやもやしたことは事実だった。今までにあまりない経験したことのない感情だったから、考えた。ミーハーじゃない、俺の音楽をわかってくれる真面目な女がよかった。隣の女は、顔や雰囲気も好みだった。同じ大学の女は後々面倒なことになるからやめておこうと思ったのに、面倒なことにならないかもと希望すら感じた。


 これは、恋だろうか。はっきりとした答えは出なかった。


 来週のこの授業で、某かの動きがあるだろう。ないかもしれない。ノートを返却されて「ありがとう」で終わるかもしれない。


 俺は、気持ちを切り替えて授業に集中し、いつ試験になってもいいくらいに頭に焼き付けた。



 


 















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