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先輩の彼女  作者: 槇 慎一
2/12

2 俺が先輩に憧れた理由


 昨夜は、教授のお宅で俺の入学を祝ってもらった。


 一限の授業に余裕をもって間に合うくらいに家を出ると、少し前に槇先輩の後ろ姿が見えた。俺は走った。


「槇先輩!おはようございます」

「あぁ、高橋。おはよう」


 俺は槇先輩が好きだ。

「昨日の、彼女に渡したんですか?」

「渡したけど、彼女じゃないよ」

「結構な時間だった筈ですけど、会えるんですか?」

「お互いが、両方の家の鍵を持ってる。『教授から』ってメモを残して玄関に置いてきただけだ。会ってない」

「鍵!それは両方の両親も公認の彼女ですよ」

「もう一度言う、『彼女』じゃない。自由に出入りさせて練習している『生徒』だ。教授にお世話になったこともある。他言しないでくれ」

「はい、すみません」

 俺は一応謝った。ちょっとからかいすぎたか。先輩は真面目だからな。


 どんな人なんだろう。見たことはない。見せてもらえないだろうな。


 俺は高校生の時から月に一回、地方から教授のホームレッスンに通っていた。ある時俺は、交通事情で自宅まで帰宅することができなくなった。飛行機代、レッスン代、地方からだとお金がかかる。余計なお金はそんなに持っていなかった。俺は槇先輩を頼った。図々しすぎるだろう。でも……電話してしまった。

「槇君、……高橋です」 

「高橋君!今日レッスンだっただろ?飛行機飛ばないんじゃないか?うちに来いよ。品川だ」

 先輩は、俺の用件も聞かずに言いにくいことを判ってくれた。

「すみません、お世話になります」

「気にするな。◯◯◯駅の◯出口にいるから」

「ありがとうございます……」


 俺は羽田空港から引き返し、品川近くの◯◯◯駅に行った。降りたことのない駅だったが、すぐにわかった。雨風の強い中、大きな傘を二本持った先輩が、出口で待っていてくれた。


「大変だったな。こんな天気でなければたいした距離じゃないんだけど、ここから歩ける場所だから」


 同性で同じ学年、同じ教授に習っていて、可愛げのない俺にライバル心を持たれてもおかしくない、ここまで親切にする義理もない筈なのに……槇先輩はそんな風に接してくれた。俺の顔は、雨以外の理由で濡れた。


 都内の閑静な高級住宅地にあるマンションには、駅から数分で着いた。リビングには、亡くなった作曲家が所有していた曰く付きと言われるコンサートグランドピアノが置かれていた。他に、レッスン用のグランドピアノが二台あるという。槇先輩の『生徒』はこの上の階だと聞いた……社宅らしい。毎日子供の頃から一緒にピアノで遊んでいただけだという。


 俺は月一回のレッスンだったのに、槇先輩は毎週レッスンに呼んでもらえること、母親がピアニストで音楽に理解があり、教授のところには小学校高学年から通っていること、羨ましかった。既に『生徒』がいることも……それは即ち人物に魅力があるということだ。


 槇先輩と『生徒』の関係は、まだ続いているんだな。


 俺達は大学に着いた。

「またな」

「はい」





 始業前に教科書を開いて予習していたら、男子の同級生に声を掛けられた。

「ねぇ、代表挨拶した高橋君だよね。来る時、槇先輩と話してただろ?」

「同じ門下」

 俺は、ちょっと得意気に答えた。

「マジ?すげぇ!槇先輩カッコいいよな~」

「性格も良くて、真似できない」

 自分の自慢はしないが、槇先輩の自慢をした。

「槇先輩は背も高いしさぁ、顔もいいしさぁ、ピアノもトップだろ?お前も頑張れよ!」

「ありがとう。名前は?」

「俺は佐藤。この辺は皆ピアノ科。よろしくな」

「よろしく!」 


 俺はたちまち全員の男子と仲良くなれた。音楽大学は女ばかりだ。男は男同士仲良くするに限る。少し遅れて女達が話しかけてきて、賑やかになった。


 先生が入ってきて、授業が始まった。


 新しい大学生活が始まった。

 

 
















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