姉妹の秘密 絡んだ糸
ラウロは、喪服を着るデメトリア王女の真意を本当の意味では理解できていないのだろう。
今月も、喪服と呼ぶには華やかで、黒い真珠を縫い付けた大層豪華なドレスを届けに、宮殿に上がった。デメトリア王女は、ラウロの訪問を毎回歓待してくれるが、ラウロ自身は早く帰りたくて仕方なくなる。デメトリア王女は、性格が悪いのだ。ラウロの傷口に塩を塗るのを喜びにしているらしい。大きく角ばった粗塩を刷り込み、時に奥まで届くように雪のように細かな塩を揉みこむ。それは、特に、ラウロがコルネリアと婚約してからひどくなった。
本日も、デメトリア王女は、真っ黒な服を身に付けて、まるで未亡人のように振舞っている。
「それで、コルネリアとは、仲良くやっているの?あの子は、デートの時、どんな色の服を着ている?」
「……最近、会っていませんので」
「あら、仕事を言い訳に、とうとう会うのをやめてしまったの」
つまらないわね、あなたっていう人は、そう表情で語られた。実際は、ただ、会うことを拒絶されているのだ。
「違うわね?コルネリアに拒否されているのだわ」
デメトリア王女は、性格が悪い。そして、デメトリア王女は、勘が鋭い。貴族という身分、そして交渉事を仕事にしている職業柄、ラウロは表情を隠すことを得意としている。美しくも、整っているわけでも、野性的な男らしさを持っているわけでもない、ラウロの顔の唯一の良い点は、常に柔和な表情を浮かべ、他人を不快にせず、警戒させない点だ。一方で、他人には感情を読み取りにくいのだが、デメトリア王女は、こうやって、ラウロの隠したいことを言い当てるのだ。
「コルネリア嬢が、何を考えているのか、分からなくなる時があります」
「嘘ね」
「……本当です」
「分からなくなる時があるんじゃないわ。常に分からないのでしょ。あの子のこと」
分からなくなる時がある、そう言葉を選んだのは、無意識だったが、虚勢を張っていたのかもしれない。何もない場所に、金が埋まっていると嘘をつくほどの、大きな虚勢だった。
「でも、本当は、察しているところもあるのではない?例えば、あなたが天使のように信奉していたレオノーラのこと、とか」
「……察することはできても、具体的なことはなにも」
「あなた、兄弟は?」
「姉が一人おりますが」
いつもケラケラと大きな声で笑っていた姉の姿が、思い浮かんだ。少し貴族の枠よりも商人の枠に近い人で、貴族然としたコルネリアとも浮世離れしたレオノーラとも違う人だった。
「それならば、そう簡単には、分からないわ」
「どういう意味でしょう。」
「女というのは二人になると複雑になるの。姉妹であればなおのこと。愛しているから憎くて、憎いから愛するの。そういう関係では、どちらかだけが悪いということはほとんどないわ。お互いがお互いに責任があるものよ。あの二人は特にそう。」
ラウロは、口にした紅茶の苦さに、一瞬だけ顔を歪めた。それを見て、デメトリア王女は大層楽しそうに笑った。
デメトリア王女は今月の納品した黒いドレスにも、一切興味を持っていなさそうだった。本当の意味で、デメトリア王女が喪服を選ぶ理由を、理解できていないように、ラウロはコルネリアのことを一つも理解できていないのだろう。天使のように崇め奉っていたレオノーラのことも何一つ。そして、あの二人の間にあるすべてを理解できていないのだろう。そう思うと、苦かった紅茶がより苦く感じた。