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異世界に転生したら、妹が増えた  作者: 鈴木すばる
5/8

5話 シュレディンガーの妹

5話


————翌朝

 

「なんとなく分かったけどさ、ピアノって重いね」

「もう、ピアノは嫌だ」

「弦が多すぎて、意味わからん」

異世界に転生したから、正直、何らかの特別な力を期待したけど、腕力がいつも通り弱いんだよね。そんな肉体的な労働をしたことないから、仕方ないんじゃないか? でも、周りからの視線は苦しかった。「あ、なんて情けない男だ」と言わんばかりにじーっと見つめていた。恥ずかしいけど、この町の子供だって馬鹿強いから、比べものにならない! 妹たちも軽くショックを受けたみたいだ。

「ね、お兄ちゃん、ちょっと……」

「ん? 何でしょう?」

朝になっても、布団から出たくない。もちろん、俺は疲れているけど、それはともかくとして、この状況を味わいたい。そう、俺は今、妹たちと添い寝をしている。昨夜、センとハナは夢の中にもピアノが出るから眠れないって言って、俺の布団に飛び込んだ。その時、俺は大発見をした。

「お兄ちゃん、この手は……」

「気のせいだ」

「でも、変な所に……」

「気のせいだ」

名付けて、シュレディンガーの妹だ。どっちが本物かどっちが偽物かをわからない故に、センとハナは同時に妹だけど、妹ではない。ギリギリセーフだ、と思う。


「おはようございます!」

オパールがドアを開けて、折角のチャンスを台無しにした。

「今すぐギルドに行ってください! 朝ごはんが欲しければ、せめて仕事を見つけなさいよ」

いや! 仕事したくない!

「お兄ちゃん、腹が減った」

「私も」

俺は顔を伏せた。

「俺も」


そいうことで、俺たちはギルドに向かった。

「お兄ちゃん、これ見て! 本物の受付のお姉さんだよ! 陳腐だ!」

「お兄ちゃん、こっち! 怖い顔の冒険者だ! 超陳腐だよね!」

「なにつってんだよ、このお嬢ちゃん⁈ 俺だって傷つくよ! 陳腐ってなんだよ⁈」

俺は慌ててみんなに謝ったけど、あまり目立ってたくなかったな。だって、センの言っていることは間違ていない。この冒険者たち、本当に顔が怖いんだよ!

「えと、仕事を探していますけど、初心者にできそうな仕事ありますか?」

俺は受付のお姉さんに尋ねたけど、鼻で笑って目をそらした。

「あ、はい、子供にでもできそうな仕事ですよね。ちょっと待ってください」

おい。昨日、見てたのか? 確かにこの世界では腕力は子供以下かも知れないけど、異世界人だよ、俺。きっと何かの隠された力があるんだ! 

「はい、仕事はいくつありますが、その前に冒険者レベルを確かめますね」

ほら、来たぞ! お約束のエベント!

「この水晶球を触れたら、冒険者レベルや魔法属性が分かります」

「よし、見て驚け!」

俺は自信満々で水晶球を手にした。

「はい、冒険者レベルは0です」

「いやあああああぁぁぁ!」

絶望ってこんな感じかな。

「魔法属性は土魔法ですよね。冒険者より農業に向いています。それからは、ん?」

お姉さんは首を傾げる。それで、目を細めて俺を見つめた。

「この特性スキル、見たことがありません」

これは、まさかの逆転?

「妹の王ってどんなスキルかはわからないけど、嫌らしい気がしますね」

妹の王ってなんだよ⁈ やめてください、そのゴミを見るような目!

「次は君たちですよね。双子ですか?」

俺を無視して、お姉さんはセンとハナに声を掛けた。

「は、はい」

「ふ、双子です」

凄く不自然だ。

「では、冒険者レベルを確かめます」

お姉さんはセンに水晶球を渡した。

「はい、冒険者レベルは2ですね。それに水属性だから、お兄さんと同じく、農業がお勧めします。次は君ですよね」

お姉さんはハナに水晶球を渡した。

「ん? 何かの間違いでしょうか?」

「ななななっ、何でしょう?」

ハナは顔を伏せて、オドオドと尋ねた。

「何も映りません。おかしいです」

おい、ハナ、俺のシュレディンガーの妹を壊すな! 

「きっとその水晶球が壊れているよ。ちょっと俺に渡してくれないか?」

「あ、はい」

ハナは慎重に、手を震えながら水晶球を渡した。

———ガチャンと

「あ、すみません! 手が滑った! まあ、もう壊れていたみたいけど、本当にすみません」

ハナは不思議そうな顔で俺を見つめていた。俺は笑って見返した。

大丈夫だ。

「その水晶球は高いんですよ?」

うわー、めっちゃ睨んでいるよ、このお姉さん!



宿に帰ったら、オパールが笑顔で迎えた。

「仕事が見つかれましたか?」

「は、はい」

ついでに借金もできたけど、それは言えないな。


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