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零課   作者: 大島集
壱話 始
6/7

壱話 幕間~幼き日の出逢い~


 幼い男の子は何も考えずに、一人で青空を眺めていた。


 周りでは年齢も性別もばらばらな子供達が楽しそうに遊んでいる。


 そんな孤立した男の子の隣に、同い年くらいの女の子がやってきた。



「ねえ。ひとりでなにしてるの?」



「……べつに。なにもしてない」



 男の子は短く答えると、一人になれる別の場所へ移動しようとした。


 だが、その後ろから女の子が付いて来る。それも、いくら歩いてもしつこく。



「まってよ。どうしてひとりなの?ここにいるみんなって、わたしやおねーちゃんみたいに、パパやママがいないんだよね?それなのに、ひとりでいてさみしくないの?」



「さみしくない。だからひとりにさせて」



 男の子は歩みを速め、女の子を振り切り、この日はそれ以降、付き纏われずに済んだ。





 次の日。男の子がまた一人で過ごしていると、女の子がまたやってきた。そして唐突に自己紹介を始めた。



「まだなまえ、おしえてなかったよね?わたし、かなえふうかっていうの」



「……そう」



 女の子の自己紹介に対し、相変わらず目も合わせずに小さく頷くだけ。


 彼女の正体は親を亡くしたばかりで、親戚に引き取られる前に一時的に施設に預けられた風花であり、男の子は幼き日の紅牙だ。



「うん。おねーちゃんは、せいらっていうの――いっかげつごには、しんせきのいえにいくけど、わたしとともだちになってくれる?」



「すぐいなくなるなら、なるひつようもないよ。と、いうよりも、ぼくじゃなくていいでしょ」



 風花のお願いを呆気なく断った紅牙は、走ってその場から逃げた。


 しかしそれで諦めないのが風花だ。




 次の日もまた次の日もしつこく、付き纏った。



「ねぇねぇ。なまえ、なんていうの?」



 毎日この質問を繰り返す風花だったが、紅牙は一向に答えず五日が経った。



「ねえ……グスッ……なまえ……なまえ、なんていうの?」



 まだ幼い女の子だけあって、流石の風花も紅牙の冷たい態度に泣き出しそうになっていた。


 相手は人間、自分は吸血鬼で化け物。それを幼いながらも自覚していた紅牙は冷たくあたっていたが、この事態には流石に心が痛んだ。



「はぁ……こうが…………なまえをおしえてんだから、もう……」



「そっか!こーくんだね!これからよろしくね」



 けろっと泣き顔を笑顔に変えた風花は、強引に紅牙の言葉を遮る。


 この瞬間、紅牙は名乗ったことを後悔しかけた。



「だから、ともだちはいらないって……ぼくはバケモノだから……」



 紅牙の気持ちが分からない風花は、奔放に紅牙の体を触ったり、近くで顔を見たりした。



「バケモノ?それって、おばけのこと?でも、こーくんは、ひとにしかみえないよ?」



「そのいいかた……ふうかちゃん、おばけがみえるんだね。でも、それをいうと、みんなこわがっちゃうから、おばけがみえることは、いわないほうがいいよ……」



 自分のことをあまり触れられたくない紅牙は、咄嗟に風花の話題に変え、アドバイスまでした。


 紅牙は心のどこかで、『ひとにしかみえない』と言われたのが嬉しく思っていたのかもしれない。


 だがその感情が仇となり、立ち去ろうとする紅牙の服を風花は掴んだ。



「え?おばけがみえること、しんじてくれるの?もしかして、こーくんもみえるの?」



 さらに風花は紅牙の前へ回り込み、初めての理解者に嬉々とした笑顔を浮かべていた。


 紅牙はそんな風花を無視して、歩き出そうとすると決まって風花は泣き出しそうになる。


 非情になりきれない紅牙は、泣きそうな風花を放ってはおけなかった。



「……みえるよ。バケモノだからね。そうとわかったら、ぼくにはちかよらないで」



「いや!こーくん……ともだちに……なってよぉ……」



 すぐに泣きそうになる風花に魅入られたことを、紅牙は後悔しながらやむをえず肯じた。



「ぐっ…………わかったよ……」



「ほんと?!じゃあ、わたしのことは、『ふうちゃん』って呼んでね」



 『一ヶ月の辛抱だ』と、この時の紅牙は自分にそう言い聞かせ、風花のお願いを全て聞き入れた。




 その日を境に、風花は姉と過ごす時間以外は全て、紅牙にくっついて過ごすようになっていた。


 活発的に仲良く遊ぶわけでもなく、ただただ風花が話し掛け、会話をするだけだ。


 それでも風花には不満などなく、会話しているだけで親を亡くした悲しみを忘れられた。


 時には、その会話に星羅が混ざることもあった。


 この施設には中学生までいれるので、当時十四歳の星羅と同年代の子は何人もいたが、紅牙同様に誰かと係わろうとしておらず、そのせいか他人とほぼ係わらない紅牙とは意外と反りが合っていた。



「ごめんね、こーくん。風花がしつこくて」



「まぁ、はい……おねえさんは、ちゅうがくせいだから、ひとのきもちがわかるんだね?それにびじんさんですし、おもてになるしょう」



「そんなことないよ。むしろ、こーくんは、六歳なのに大人びてるね」




 そうして風花達と係わり、紅牙が風花に心を開いたのは、風花達が親戚に引き取られる前日のことだ。



「あしたで、こーくんとおわかれかぁ……こーくんは、さみしい?」



「いや……ぜんぜん……」



「そっか……わたしは、すごくさみしいな……それにパパとママがいないこと、おもいだしそう……」



 紅牙と過ごす中で、基本的に笑顔を見せていた風花が、心の内を声に出した時、悲しそうに伏し目になっている姿を晒した。


 むしろ、親を亡くしたばかりの六歳の女の子なら、この姿の方が普通かもしれない。


 姉の星羅は顔に出やすいため、隠していても悲しんでいることは分かったが、風花は隠すのが上手く、紅牙が風花のこの顔を見たのは初めてだった。



「でも、たよれるびじんのおねえちゃんが、いるじゃん。きっと、さみしくないよ」



「うん……でもおねーちゃんまで、いなくなったら……」



「だいじょうぶ。たったひとりのかぞくをのこして、いなくならないよ。あのおねーさんは」



 風花には笑顔でいてほしいと思った幼き紅牙は、気づいた時には頭の上に手を置いていた。


 紅牙が誰かを慰めるのに頭を撫でるようになったのは、これが始まりでもある。


 風花が施設にいた期間で、紅牙の方から風花に触れたのは、これが最初で最後だったが、紅牙に初めて優しくされて、風花の暗い気持ちも吹き飛んだ。



「こーくん……そうだ!だったら、こーくんがおねーちゃんをまもってよ。おとこのこがおんなのこをまもるのは、ぎむなんだよ?それと、わたしのこともね」



「まもるって……あしたでおわかれなのに?」



「おおきくなったらでいいよ。ぜったいに、またあえるから!やくそくだよ!……もし、やくそくをまもってくれたら、こーくん、わたしのおよめさんに、なってね!」



 笑顔に戻った風花は、紅牙の前に小指を差し出した。紅牙は照れながらも、最後まで目を合わす事なく、拳万に応えて風花の指に自分の小指を絡めた。


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