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零課   作者: 大島集
壱話 始
1/7

壱話 プロローグ

はじめましての人も、そうじゃない方もこんにちは。

以前、ハーレム系学園ラブコメを書いていた、大島集です。

この度、再熱したので、新作を書きました。

取り敢えず、壱話をいくつかに分けて投稿したので、評価次第で続きを書くか消すか決めたいと思います。


  この世には科学では説明がつかないものが、多数存在する。心霊、妖怪、地球外生命体、未確認生物、神話、都市伝説など、大昔からその土地や習慣毎に様々な言い伝えがある。


 それらの言い伝えは怖く残虐なもの。時には悲しく切ないもの。稀に誰かを幸せにするものでさえ、星の数ほど存在している。


 だがそれらを語る人々のほとんどは『常識的に考えて、あり得ない』と一蹴し、自らの目で視認しない限り、認めようとはしない。中には、見たことを夢だと強く思い込み、現実から目を背ける者でさえいる。


 しかし、それらは確かに存在し、世界各国の政府も無視できないものになっていた。


いつからかそれらによる脅威を、実在するが見えない方が幸せという逆説の意を込め『非科学的事件(パラドクス)』と呼ばれるようになった。


 各国の政府は人的被害を減らすためにも秘密裏に、何百年も前から対策する組織を懐に抱えており、それは日本も例外ではなく、現在は政府の極秘組織『非科学事件対策局』を設けている。


 日本では陰陽師や霊媒師を中心とし、零課から伍課までの計六つのグループに、それぞれ少人数の構成員が割り当てられ成り立っていた。


 壱課は心霊や妖怪が起こした事件。弐課は未確認生物。参課は地球外生命体。肆課は神。伍課は都市伝説と、課によって担当は分けられている。


 ただし最後の一つ零課だけは別だ。


 零課は全ての事件に関与し、解決及びそのサポートをする特殊な組織の、特別な存在となっている。



 そんな零課に一人、新たなメンバーが加入しようとしていた。




 十二月のとある日。とある県警の一室。そこに、二つの人影があった。一人は椅子に座り、両肘を机に置いている口の上の白い髭が特徴的な年老いた男性。もう一人は、その男の前に直立不動な体勢で畏まっている二十代半ばくらいの女性だ。


 重い空気が漂う中、女性は口を開いた。



「本部長。お話というのは?」



 女性の目の前にいる男こそがこの県警の本部長であり、女性は部下にあたる刑事だった。


 二人が向かい合っていたのは、女刑事が『話がある』と、本部長から呼び出されていたからだ。上司と二人きりだったら、嫌でも空気が重くなる。


 女刑事の気持ちを察してか、本部長は話す前に深刻な顔を止め、にっこりと微笑んだ。



「まずは退院おめでとう。その様子からして、すっかり完治したようだね」



「はい。おかげさまで」



 本部長が言ったように、女刑事はつい先日まで入院していた。原因は三か月前に起こったとある事件で銃撃戦になり、その流れ弾が被弾し重傷を負ったことだ。


 今現在は回復し、職にも復帰している。



「ホッホッホ……『おかげさま』と言われても、わたしは何もしとらんよ」



「はぁ……」



 女刑事は決まり文句のつもりで言ったセリフだったが、本部長はそのセリフを真に受け、笑い飛ばした。顔を引き締めていた女刑事も、この状況には愛想笑いを浮かべるしかなかった。



「わたしよりも、意識が戻らない君の所へ、毎日通っていた妹さんに感謝すべきだ」



「それは勿論しています。ですが同時に、心配をかけて申し訳ないとも思っています……お互いが唯一の家族ですから」



 自分で口にしておきながらも、女刑事の顔は無意識のうちに曇っていた。彼女がそれ以上、口にしなくても、本部長には彼女の表情が暗くなった理由は分かっている。それでも本部長は彼女の心の傷を抉ることになることを覚悟の上で、そのことを口にした。



「君が中学生の頃にご両親が何者かに殺害され、その犯人を捕まえるために刑事になった。そしてわたしが君をここに呼んだのは、多分だがその事に関係のある話があったからだ」



「本当ですか?!」



 本部長の告げた用件は、彼女の傷を抉るどころか、目を輝かせ声を大きくし聞き返した。今となっては彼女にとって過去の事件の話題は、喉から手が出るほど欲しているものだ。


 女刑事が取り乱さないことを確認できると、本部長は彼女をここに呼んだ本当の理由を話すべく、話を続ける。



「あぁ。君の両親の死には、不自然なことが多い。正直、我々がこれ以上捜査をしても迷宮入りするのが落ちだ。そこでだ――君に異動の話が来ている」



「……異動ですか?」



 女刑事は眉を顰めた。彼女は本部長が言った『我々』という単語が、警察全体を示していると理解していた為、他の県警や警視庁に配属されても意味のないことも理解していた。


 だが本部長は彼女の返した言葉に強く頷く。



「そう。異動だ。だが、君には刑事を辞めてもらう必要があるがね」



「ちょ、ちょっと、待ってください!意味が分かりません!異動なのにどうして辞める必要があるのですか?!辞めたら、迷宮入りどころか、捜査自体できないじゃないですか!」



「ま、まぁ。落ち着いて、最後まで話を聞き給え」



 本部長の発した言葉に、女刑事は先程まで目を輝かせていた事が嘘かのように、うってかわって激しい剣幕を見せ、相手が本部長であることをお構いなしに、問い詰めた。


 彼女でなくとも、立場が同じならそうなる者も多いだろう。


 本部長は勢いに押され、冷や汗を掻きながら、女刑事を宥める言葉を掛けた。幸いにも彼女は、聞き分けが良く、すぐに冷静になり再び本部長の言葉に耳を傾けた。



「君が何故刑事を辞めなくてはいけないのかは、君の異動先が警察ではなく、政府直属の極秘組織からのお誘いだからだ」



「極秘って……機密組織ってことですよね?そんなのドラマや映画でしか聞いたことないですよ?一体、何の組織だというのですか?」



 本来なら冗談だと笑いたくなるような話だが、本部長の真剣な顔を見て、それが冗談ではないと女刑事は判断した。


 しかし突拍子もない話だったために、取り戻した冷静さもすぐに失われる。



「それが、わたしも詳しい話は分からないんだ――現在の警察組織内で、銃の腕前が一番という理由で君にこの話が来たのだが……どうも、理由はそれだけではない気がするんだ」



 座っている椅子を半回転させながら、本部長は険しい顔を作った。その顔は窓の方を向き女刑事からは見えてはいない。


 だがそれは逆も然り。女刑事の顔色も優れないものだった。


 彼女には心当たりというには小さいが、一つだけ気掛かりとなる悩みがあったからだ。


 ただ、そのことは現実味がなく、言っても信じてもらえず馬鹿にされるだけだと思い、彼女は出てきかけた言葉を飲み込んだ。



「……まぁ。用心深いわたしの、考えすぎだろうから、気にしないでくれ。銃の腕が一番というのは、それだけでスカウトされるのには十分な理由だからな」



「そ、そうですか……」



 険しい顔を崩しながら、本部長はまたも椅子を半回転させ、元の状態である向き合う形に戻した。


 女刑事もそれに合わせて、現在自分が抱えている悩みと異動の話を結び付けていたことを悟られないように、笑顔を繕う。


 そして無理矢理に悩みのことを一旦忘れ、謎が多い異動に関することを質問する。



「ですが、どうしてそんな本部長でさえ知りえない機密組織が、私の両親の事件を解決できるかもしれないと分かるのですか?」



「それは先方からの手紙に、そう書いてあったからだよ。どういうわけか、あちらは君のことを知っているらしい。流石、政府の機密組織だよ」



 質問の答えの最後に、感心とも呆れとも受け取れるため息を漏らしながら、本部長は肩をすくめた。


 一方で女刑事は本部長とは違い、眉間の皺を寄深くさせていた。



「あの……そんな怪しい組織を、信じて大丈夫なんですか?連絡手段も手紙で、直接声を聞いてもいないようですし」



「あぁ。信じるには値するよ。取り敢えず、手紙の現物を見たまえ……」



 疑いの目を向ける女刑事を納得させるために、本部長は自分机の引き出しから、一通の封筒を取り出し、中から一枚の紙を出して広げた。



「この手紙には皇室のサインに、印まで押されてある。政府の組織であるのは疑いのない事実のようだ。それと、声が聞けないのは、極秘のため素性がばれないようにするためらしい」



「……ほ、本当ですね!……一応、電話番号も書いていますけど……『話を受ける場合のみ電話を掛けろ』と」



 女刑事は手紙をまじまじと見つめ、本部長が指差した部分のみを読み取った。


 それだけで、彼女が異動先の組織を信じさせようとするには十分だろう。


 皇室という思わぬ大物の登場に、女刑事は目を丸くし続けている。



「君が驚くのは分かるが、結局は話を受けるか受けないかだ。この手紙には他に、君がこの話を受けた場合のメリットとデメリットも記されているが……どちらから聞きたい?」



「どちらからでも……」



 この時、女刑事の心は既に決まりかけていた。彼女からしてみれば聞かされる順番などどうでもいい。心配事は、デメリットが及ぼす妹への害のみだった。



「なら、デメリットから話すとしよう――デメリットは大きく二つ。一つは、今まで以上に君の身が危険な目に晒されること。もう一つは君の妹にも関することだ……」



 一つ目のデメリットに関しては、当然といえば当然のことだ。


 それは覚悟していたが、本部長が二つ目を話している途中に出てきた『妹』という単語に、女刑事は肩をビクつかせ、恐る恐る本部長の言葉の続きを聞いた。



「君も薄々は気づいていると思うが、異動先はこの国の首都。東京だ。当然、君は引っ越すことになるが、妹と二人暮らしの君が引っ越すということは、妹も引っ越すことになる」



「な、なんだ……そういうことですか――紛らわしい言い方しないでください。てっきり、妹にまで何か危険が及ぶと思いましたよ……」



 女刑事は、二つ目のデメリットが自分の考えていたような、妹に危害が及ぶものでないと知ると、緊張が解れ安堵の息を吐き捨てた。


 一気に緊張感が無くなった女刑事の姿を見て、本部長は苦笑いした。



「どうやら、既に異動の件について、君なりの答えは出ているようだが……君が妹の心配をしたように、妹も君の心配をするはずだ。それに君の妹は受験勉強を頑張り、入ったであろう学校に一年しか通えず、仲の良い友達と別れるのも嫌なのではないか?」



 女刑事のことだけでなく、彼女が入院している時に数回顔を合わせただけであろう彼女の妹のことまでも気にかけてくれる本部長の気配りに、感謝しながら彼女は答えた。



「そこは心配ないです。今までも姉である私の我が儘を、快く聞き入れてくれますから。それに、両親を殺した犯人の逮捕は、妹も望んでいる事ですし」



「ホッホッホ……どっちが姉か分からないな」



 女刑事の言葉に本部長はシリアスな雰囲気だったことを忘れ、つい笑ってしまっていた。


 それに釣られるようにして、女刑事も笑顔を浮かべる。



「よく言われます。それに、異動も今すぐに、というわけではないですよね?」



「あぁ。来年の四月からだ。丁度、新年度というわけだな――せっかく時間もあるんだし、妹とじっくり話したらどうかね?最終的な君の答えは、一ヶ月後に聞かせてくれればいい」



「でしたら、そうさせて頂きます……ですが、やはり私の答えはもう決まっています」



 最後のセリフに合わせ、女刑事は気合を入れた顔になった。



「――それでは、入院していて溜まっていた仕事がありますので、失礼します」



 女刑事は異動の話が終わったと、自分の中で完結させ一礼し、とっとと部屋から出て行った。彼女はメリットについて聞くことをすっかり忘れている。


 立ち去る女刑事の足取りは、彼女が今の今まで話しをしていた本部長室に来た時よりも、足取りが軽くなっているように感じられた。




 女刑事がいなくなり、一人残った本部長は独り言にしては少々大きめの声で、彼女が出て行った扉を見ながら呟いた。それも楽しそうに笑いながらだ。



「最後まで人の話を聞かないで、出て行くとは……まぁ、(かなえ)君にとっては両親の事件が進展する可能性があるだけで、十分過ぎる程のメリットなのだろうな……」



 コンコン。


 本部長の言葉が以外誰もいない一室に響き渡っていると、部屋をノックする音が変わって響いた。



「失礼します。本部長。今、叶の娘が出てきましたが、何の話を?」



 女刑事に代わり、入ってきたのは四十代半ば程の中年男性だった。



多守(たも)君か。彼女の両親の死について、話していたんだよ。そういえば君は、彼女の父親と同期だったな?」



「ええ。正義感の強いヤツでしたよ。『人々は俺が守るんだ!』とか言う様な。そういう本部長こそ、叶は元部下ですよね?」



「少しの間だったがそうだったな。惜しい男を亡くしたよ。刑事はどこで恨みを買っているか、分からないもんだな。彼女らのためにも、早く犯人が見つかればいいんだが」



「そうですね。しかし現状を踏まえると難しいでしょうけど……ま、それはさて置き、今は来年の四月に行われる出張の打ち合わせをしたいのですが」



 淡泊な性格なのか、そこまで興味がないのか。将又自分の用件を優先したかったのか。多守と呼ばれた男はあからさまに話を変える。


 自分が何を言っても女刑事の意思は変わらないのは分かっていた本部長は、密かに身を案じながら、多守に倣い気持ちを切り替えた。

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